2026年ロシア連邦予算成立、軍事優先と国民負担増大の構造的転換を確定

ウラジーミル・プーチン大統領は2025年晩秋、2026年以降の3カ年を見据えた連邦予算法に署名し、ロシア経済の構造的な戦時体制への移行を正式に確定させた。この予算は、歴史的な水準での国防費の増強を最優先事項とし、その財源確保のために社会保障や国民経済への支援を大幅に削減し、新たな税制措置を導入するという、明確な資源再配分を示している。この決定は、ロシアの財政政策が長期的な軍事目標達成のために国内の福祉と経済発展の基盤を犠牲にするという分析を裏付けるものとなった。

2026年度の連邦予算の総歳出は約44兆600億ルーブルと計画されており、そのうち、陸海空軍および「国家安全保障」関連の支出は合計で16兆8,400億ルーブルに達する見込みである。これは歳出全体の38パーセントを占め、2021年の戦前水準の24パーセントと比較して1.6倍の増加となる。特に陸軍と兵器調達に特化した支出は12兆9,300億ルーブルに達し、ソビエト連邦時代以来の最高比率を記録した。この軍事優先の姿勢は、財政赤字が3兆7,800億ルーブル（GDP比1.6パーセント）と見込まれる中で強行されており、2022年以来4年連続の財政赤字となる見通しである。財政赤字の補填は主に国債発行に依存し、国民福祉基金からの繰り入れは2026年以降は想定されていない状況である。

一方で、国民生活に直結する分野への配分は著しく圧縮された。社会政策への支出比率は38.1パーセント（戦前比）から25.1パーセントへと大幅に低下し、国民経済支援への支出も17.6パーセントから10.9パーセントへと縮小した。ロシア連邦財務省の過去20年間の統計において、これら二つの分野の支出比率は過去最低水準を記録した。この支出構造の転換は、戦争継続のコストを社会全体に転嫁する措置であると複数のアナリストは結論付けている。なお、2025年度の予算編成時にも、国防費は2024年修正予算比で9.2ポイント増の13兆4,900億ルーブル（全体の32.5パーセント）を占めており、この傾向は継続している。

財源確保の柱として、2026年より新たな税制措置が導入される。これは、今年度の石油・ガス収入が20パーセント減少したことによる歳入減を補う目的がある。具体的には、付加価値税（VAT）が20パーセントから22パーセントへの引き上げが予定されており、これだけで1兆2,000億ルーブルの歳入増が見込まれている。さらに、小規模事業者のための簡易課税制度の廃止も含まれ、全ての新規税制措置による総歳入増加額は2兆6,000億ルーブルに達すると試算されている。なお、2025年以降の税制改正法案は、2024年7月12日に連邦法として成立しており、個人所得税の累進課税復活など、広範な変更が2025年1月から施行されている。

この予算編成は、ロシア経済が「軍事ケインズ主義」の様相を呈しつつあることを示唆している。戦争への支出が経済活動を支える側面がある一方で、人材不足の深刻化や、軍事支出による財政赤字が民間投資を圧迫する「クラウディングアウト」現象も同時に進行している。アントン・シルアノフ財務大臣はVAT増収について言及しているが、石油・ガス収入は平均石油価格の下落により2025年1月から10月までの期間で21.4パーセント減少し、7兆4,980億ルーブルに落ち込んでいる。この財政の硬直化と軍事優先の継続は、長期的な国内の活力維持に対する構造的な課題を内包していると評価できる。