一神教における神の多面性：イスラム教とユダヤ教の呼称比較分析

多神教が多様な神格を個別の名称で呼称するのに対し、唯一の創造主を信奉するイスラム教やユダヤ教といった一神教においては、単一の神の多面的な性格や世界との関わりを表現するために、複数の神聖な呼称が用いられるという構造が見られる。これらのアッラーやヤハウェに対する多様な呼び名は、神の属性や振る舞いの側面を具体的に示唆するものであり、例えば、神を「王」として捉えたり、「慈悲深く憐れみ深い御方」として称えたりする用法がこれに該当する。ヘブライ語の「エル（El）」やアラビア語の「アル＝イラーフ（Al-Ilah）」、すなわち「神」を意味する西セム語系の語彙は、これらの宗教が成立する以前から存在し、後に固有の神名と並行して使用されるようになったことが示唆されている。

アブラハムの宗教として共通の系譜を引くイスラム教とユダヤ教は、それぞれ唯一神に対する固有の神聖な名称を保持している。イスラム教において最も中心的な固有名は「アッラー（Allah）」であり、クルアーン（17章110節）では「あなたがたが呼び求めるいかようの御名を用いても、最も美しい御名はかれに属する」と述べられ、神の多様な側面を表現する多くの美名（アスマ・ウル・フスナ）の使用が奨励されている。一方、ユダヤ教においては、モーセに啓示された最も親密な固有名として「テトラグラマトン」として知られる四文字の神名「יהוה（YHWH）」が存在する。このYHVHは「存在させる者、存在を現出させる者」という意味の動詞の使役形に由来するという説があり、出エジプト記3章14節の「わたしは、わたしである（Ehyeh asher Ehyeh）」という自己紹介と深く関連付けられる。

神聖性の観点から、ユダヤ教の敬虔な実践においては、神の固有名YHVHを直接発音することは避けられる傾向にある。その代わりに、口頭での言及や祈りの中では「ハシェム（HaShem、御名）」や「アドナイ（Adonai、主）」といった代称が用いられる。「アドナイ」は、旧約聖書においてYHVHの代わりに「主」と訳されることが多く、神が異邦人を扱う際に多く使われたという分析もある。また、ユダヤ教の伝統では、YHVHの前に用いられた「エル・シャダイ（El Shaddai、全能なる神）」という呼称も記録されており、神の属性を示す名称の変遷が確認できる。

イスラム教におけるアッラーの属性表現は、特に「99の美名」として体系化されており、これらは神の完全な性質を示すものとされる。これらの美名には、「最も慈悲あまねく慈愛深き方（Ar-Rahman/Ar-Rahim）」や「真の王（Al-Malik）」などが含まれ、神の広範な権能と慈悲深さを示している。興味深いことに、ユダヤ教の文献にも「70の御名」が言及されることがあり、両伝統において、唯一の神が持つ無限の側面を表現するための豊かな語彙体系が存在することが共通している。

さらに、西セム語族に属するヘブライ語とアラビア語の神に関する語彙の類似性は、言語的な共通の起源を示唆している。ヘブライ語の「エル（El）」や「エロヒム（Elohim）」、アラビア語の「アル＝イラーヒ（Al-Ilahi）」は、共通の原セム語の語根「ʔil-」に由来すると考えられており、これは古代西アジアの宗教における最高の神の概念と関連している。この言語的背景は、アブラハムの宗教が共有する神学的基盤の深さと広がりを裏付けている。例えば、イスラム教徒が神を指す「アッラー」という語は、定冠詞「アル（the）」と「イラーフ（a god）」が結合した形であるという説が有力だが、アッラーが固有名であるとする見解も存在する。

これらの多様な名称と称号は、一神教の信仰者が、単一の超越的な存在を、その全能性、遍在性、そして人間との関わり方を通じて、より深く理解し、崇敬するための神学的・言語的な枠組みを提供している。神の姿を偶像化することを厳しく禁じる一神教の教義において、これらの言葉による記述は、神の性質を把握するための不可欠な手段となっている。