トランプ大統領、州AI規制を制限する大統領令に署名、連邦主導の枠組みを確立へ

2025年12月11日、ドナルド・トランプ大統領は、人工知能（AI）に関する州独自の規制を制限する大統領令「Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence（人工知能のための国家政策の枠組みの確保）」に署名した。この措置は、戦略的技術分野における米国の世界的な優位性を維持するため、州ごとに異なる規制の「パッチワーク」状態を解消し、連邦政府主導の統一的な規制枠組みを確立するという政権の姿勢を明確にするものである。

この大統領令は、連邦政策と矛盾する州のAI法に対し、司法省が訴訟を開始するよう指示している。具体的には、司法長官に対し、署名から30日以内に、州のAI法に異議を唱えることを唯一の責務とする「AI訴訟タスクフォース」を設置するよう義務付けた。この動きは、連邦主義の観点から、連邦政府の権限が州の警察権の領域に踏み込むものとして、法的な精査に直面する可能性が指摘されている。

さらに、行政命令は財政的な圧力を伴う。連邦政府は、過度に制限的なAI法を採択した州に対し、農村地域での高速ブロードバンド拡大を目的とした総額42.5億ドルのブロードバンド公平性・アクセス・展開（BEAD）プログラムの非展開資金を含む連邦資金の引き上げを検討するよう各省庁に指示した。商務長官には、国家AI政策の優先事項と衝突する州法を特定し、その評価を90日以内に公表することが求められている。

この大統領令は、2025年7月に議会で同様の州法先取りを目的とした試みが失敗に終わったことを受けた行政による対応の強化と見なされる。トランプ大統領は、AI分野での競争相手である中国との優位性を確保するため、企業が50の異なる州の承認を得る必要があってはならないと主張した。ホワイトハウスのAI・暗号資産担当であるデビッド・サックス氏は、政権として最も過度な州規制の例に異議を唱える方針を示しつつも、子どもの安全対策のような法規は対象外とすると述べている。署名時には、サックス氏のほか、ハワード・ルトニック商務長官やテッド・クルーズ上院議員らが同席した。

この時点で、カリフォルニア州、コロラド州、ユタ州、テキサス州などは、アルゴリズムの差別リスク評価や透明性要件など、AIに関する独自の法律を既に制定していた。特にコロラド州のSB 205（2026年2月施行予定）は、「ハイリスクAI」の開発者・導入者にバイアス監査や影響評価を義務付ける、全米で最も積極的な州法の一つと見なされており、連邦の訴訟対象として具体的に言及されている。

連邦による規制統一の動きに対しては、共和党の一部指導者から州の権利尊重の伝統に反するとして反発が出ている。一方で、業界団体であるNetChoiceのような組織は、連邦基準の確立が競争優位性を損なう「官僚的な悪夢」を防ぐために必要であるとして、この大統領令を歓迎している。連邦議会に対しては、州法の先取りを正式に定める新たな立法案の起草が指示されており、行政命令による措置と並行して、恒久的な法的基盤の構築が目指されている。