エディンバラ大学ロスリン研究所の研究チームは、世界的な豚の個体群に壊滅的な被害をもたらす古典豚熱（CSF）に対する耐性を持つよう遺伝子編集された豚を創出した。この画期的な成果は、家畜の健康増進と持続可能な農業の実現に向けた遺伝子編集技術の計り知れない可能性を示唆している。
研究者たちは、CSFウイルスが複製に不可欠なタンパク質DNAJC14をコードする遺伝子に精密な改変を加えた。この微細な操作により、ウイルスが宿主細胞内で増殖する能力が根底から断たれた。実験では、編集されていない豚がウイルス曝露後に感染の兆候を示したのに対し、遺伝子編集を施された豚は、いかなる健康上の問題もなく、完全にウイルスへの抵抗力を維持した。この結果は、生命の設計図への介入が、外部の脅威に対する強靭さを内側から育む力を持つことを明確に示した。
CSFは、特にアジアやラテンアメリカにおいて養豚業に甚大な経済的打撃を与え続けている主要な脅威である。過去の事例として、1998年にはグアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアの4カ国だけで、死亡や体重減少による年間の損失が2,000万米ドルに上ると推定された。また、1997年から1998年にかけてのオランダでの流行では、総費用が23億米ドルに達し、1,000万頭の豚が処分される事態となった。この病気は、ワクチン接種や感染個体の淘汰といったコストのかかる対策に依存する現状を打破する可能性を秘めている。
ロスリン研究所のシモン・リリコ博士は、この研究が家畜の健康改善と持続可能な農業を支える遺伝子編集の潜在能力を浮き彫りにしていると述べた。また、動物・植物衛生庁（APHA）のヘレン・クローク氏も、この最先端ツールが動物の健康と福祉を守る上で重要な役割を果たす可能性を示唆していると評価した。ロスリン研究所は、この遺伝的変更が感染に対する完全な防御を提供し、動物の健康や発達に悪影響を及ぼさなかったと発表している。この技術は、予防戦略の柱としてコスト削減と動物福祉の向上に貢献し、家畜生産システム全体の安定性を高める調和的なアプローチとなり得る。米国や日本、ブラジルなどではすでに遺伝子編集された家畜の承認が進んでおり、実用化の未来は間近に迫っている。