適度な日光浴が長寿に寄与する可能性：紫外線と一酸化窒素の新たな役割

近年の研究は、適度な日光への曝露が、特に高緯度地域に居住する人々にとって、皮膚がんのリスクを上回る顕著な長寿効果をもたらす可能性を示唆しており、従来の公衆衛生上の指針に再考を促しています。この知見は、太陽光を完全に避けることが、一部の集団においては喫煙と同等の死亡リスクをもたらすという指摘と軌を一にしています。

エディンバラ大学のリチャード・ウェラー教授らが英国バイオバンクのデータを詳細に分析した結果、皮膚が白い英国集団において、地理的情報および行動情報から推定された日光曝露の増加が、全原因死亡率、心血管疾患による死亡、および全体的ながん死亡率の有意な低下と相関していることが明らかになりました。具体的には、皮膚がんによる死亡が一つ懸念されるのに対し、心疾患など他の原因による死亡が75件防がれる可能性があるという試算があり、このリスクとベネフィットの比率の再評価が求められています。

この健康上の利点は、単にビタミンDの生成メカニズムに起因するものではないことが示唆されています。研究によれば、紫外線（UV）が皮膚に当たると、皮膚細胞内に貯蔵されていた一酸化窒素（NO）が放出され、これが血流に入り血管を拡張させ、結果として血圧を低下させることが確認されています。サウサンプトン大学のマーティン・フィーリッシュ教授らの研究では、適度な紫外線A（UVA）曝露により一酸化窒素濃度が上昇し、血圧が有意に低下する現象が観察されました。この一酸化窒素経路は、ビタミンD補給では得られない独自の生物学的効果であり、広範な健康増進の理由の一つと考えられています。

神経科学者のアンドリュー・フーバーマン氏もまた、安全な日光浴を推奨する論調に加わっています。フーバーマン氏は、日光曝露がホルモンバランスの改善、特にテストステロンやエストロゲンのレベル向上に寄与し、ミトコンドリア機能の向上を通じて長寿を後押しすると指摘しています。皮膚は内臓を保護するだけでなく、内分泌器官としても機能し、UVB光が皮膚のケラチノサイトにおけるp53タンパク質の活性を高めることで、ホルモン分泌を調節する分子経路が作動すると説明されています。

スウェーデンで行われた約3万人の女性を対象とした20年間の追跡調査では、日光を最も浴びるグループは、最も避けていたグループと比較して死亡率が2倍低く、平均余命が0.6年から2.1年長かったというデータがあります。この研究では、日光を避けた非喫煙者の平均余命が、日光を最も浴びた喫煙者と同程度であったと報告されており、日光回避が喫煙と同レベルの死亡リスク因子となり得ることを示唆しています。

専門家たちは、皮膚がん予防のための日焼け止め（高SPF）の日常的な使用を推奨しつつも、公衆衛生の指針を「完全な日光回避」から「安全で適度な日光曝露の奨励」へと転換する必要性を訴えています。英国のデータに基づけば、緯度が高く日照が限られる地域では、過度な日光回避が心血管疾患リスクを高める可能性があり、皮膚がんのリスクと心血管疾患のリスクのバランスを考慮した、より洗練されたアプローチが求められています。