欧州委員会、メディア自由法違反でハンガリーへの侵害手続きを開始

欧州委員会は2025年12月11日、欧州メディア自由法（EMFA）の順守を理由に、ハンガリーに対する侵害手続きの開始を発表した。この措置は、ハンガリーの国内規制と国家慣行がEMFAの複数の規定、特にジャーナリストの独立性、取材源の保護、国営メディアの透明性、および国家広告の配分慣行に関してEU法と抵触しているとの判断に基づく。この決定は、委員会が新たな法的枠組みであるEMFAを、加盟国のメディア統治における構造的問題に対処するために活用する姿勢を明確に示している。

法的根拠となるEMFAは2024年8月8日に発効しており、ハンガリーは唯一この法案に反対票を投じたEU加盟国であった。EMFAは、国営メディア指導者の選出プロセスの透明性確保や、編集上の決定に対する政治的介入の禁止といった具体的な保証を確立している。委員会は、正式な通知書において、ハンガリーの国内法がジャーナリストの取材源保護を不十分とし、違反に対する実効的な救済措置を提供していない点を指摘した。また、国営サービスの運営、資金調達、国家広告費の支出方向、メディア市場の合併・買収承認慣行についても懸念が示された。

この動きは、メディアの多元性に対する懸念が背景にある。委員会は2025年7月の法の支配報告書で、メディアの集中が多元性を脅かしていると既に警告していた。事態を具体的に示す出来事として、2025年10月31日に、スイスのRingier社がハンガリー全ポートフォリオをIndamediaに売却したことが挙げられる。この売却には、国内で最も読まれているタブロイド紙『Blikk』が含まれており、Indamediaはニュースポータル『Index』やテレビ局TV2を既に傘下に収めている。この取引は、政治的影響下にある勢力によるメディア市場の集中を一段と進めたと見られている。

ハンガリー政府には、この正式通知書に対し2か月の応答期間が与えられている。回答が委員会を納得させられなかった場合、委員会は理由付き意見を発行し、最終的に欧州司法裁判所への付託に至る可能性がある。また、Tamás Láncziが率いる主権保護局が、批判的なメディアである『Átlátszó』などの資金源を調査している動きも報じられており、過去の事例ではこうした調査が裁判所から非難された経緯がある。EUは2011年にもハンガリーのメディア法についてEU法との抵触の可能性を指摘し、改正を要求した経緯があり、今回の措置はデジタル化が進むメディア空間における加盟国の国内規制の調和とメディア独立性保護を強化するEUの決意を示している。