シル・バニ・ヤス島で1400年前のキリスト教十字架を発見、UAEの共存の歴史を浮き彫りに
編集者: Tetiana Martynovska 17
2025年8月、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ沖に位置するシル・バニ・ヤス島で、考古学者チームが約1400年前の石膏製キリスト教十字架を発見しました。この発見は、島にかつて存在したキリスト教修道院の確固たる証拠であり、8世紀までイスラム教徒と共に平和的に共存していた修道共同体の存在を示唆しています。この発掘調査は、30年以上ぶりとなる島での大規模な調査の一環として行われました。
発見された十字架は、縦約27cm、横約17cmの大きさで、当時の地域的な様式が色濃く反映されています。デザインには、イエス・キリストの磔刑の地とされるゴルゴタを象徴する階段状のピラミッドが描かれ、その根元からは生命の象徴である葉が伸びています。十字の先端には点が配され、アーチ状のニッチデザインも施されています。この十字架の様式は、イラクやクウェートで発見された同時代の遺物との類似性が指摘されており、古代イラクに起源を持つ東方教会との深いつながりを示唆しています。
キリスト教は4世紀頃からアラビア湾岸地域に広がり始め、特に東方教会は5世紀以降、この地域で重要な宗教的勢力となりました。シル・バニ・ヤス島の修道院は7世紀から8世紀にかけて活動し、約30~40名の修道士が生活していたと推定されています。湾岸地域全体で同時期にキリスト教の遺跡が数多く発見されており、当時の広範な宗教的ネットワークと文化交流の活発さを示しています。
特筆すべきは、このキリスト教共同体がイスラム教の台頭後も8世紀までイスラム教徒と平和的に共存していたという点です。遺跡からは、急激な破壊や紛争の痕跡は一切見つかっておらず、住民が平和的に移住したことが示唆されています。これは、地域における宗教間の共存が、現代の価値観だけでなく、歴史の深層にも根差していることを物語っています。
アブダビ文化観光省(DCTアブダビ)のモハメド・ハリファ・アル・ムバーラク会長は、この発見について「UAEの共存と文化的な開放性という、深く永続的な価値観の力強い証である」と述べ、この発見が地域の歴史に織り込まれた平和的な共存の原則を改めて浮き彫りにしたと強調しました。同氏は、文化遺産の保存と理解への継続的な取り組みが、UAEの豊かな遺産を次世代に伝える上で不可欠であると語っています。
シル・バニ・ヤス島自体も、新石器時代(黒曜石の採掘)や青銅器時代(ディルムン交易の拠点)にまで遡る人類の活動の痕跡を持つ、豊かな歴史を持つ島です。現在では自然保護区として、古代から生息するアラビアガゼルやハイラックスなどが島を彩っています。
この1400年前のキリスト教十字架の発見は、アラビア湾岸における初期キリスト教の広がりと、地域社会における共存の歴史に対する理解を一層深める貴重な手がかりとなります。それは、UAEが誇る多様な文化遺産の一部であり、過去から現在へと続く、人々の営みと共生の物語を静かに、しかし力強く伝えています。
ソース元
ARTnews.com
Live Science
Khaleej Times
The National
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