西暦2025年10月21日をもって、中国の「天宮」宇宙ステーションは、安定した運用開始から三年という節目を迎えました。この軌道上の実験室は、単なる国家プロジェクトの枠を超え、国際的な連携と科学的探求の新たな舞台として機能しています。天宮の存在は、宇宙開発における協調の精神が、いかにして人類全体の進歩を加速させるかを示す好例と言えます。
このステーションでは、人間の生物学、微小重力下での物理現象、先端的な宇宙材料科学といった多岐にわたる分野で、180件を超える科学的プロジェクトが遂行され、300テラバイトを超える膨大なデータが生み出されました。特に、微小重力環境下でのイネの新規胚性資源の育成や、ヒト胚性幹細胞から造血前駆細胞への分化に関する軌道上での研究から、生命の根源的な理解を深める上で貴重な知見が得られています。
国際的な広がりも顕著です。中国は国連宇宙部(UNOOSA)との協力のもと、国連加盟国に科学目的でのステーション利用を開放する方針を表明しており、現在までにスイス、ポーランド、ドイツ、イタリアなど17カ国の23機関による9件のプロジェクトが第一期科学実験プロジェクトとして採用されています。また、2025年2月にはパキスタンとの間で同国初の宇宙飛行士を選抜・訓練する協定が締結され、この飛行士は天宮を訪れる最初の外国人となる予定で、選抜プロセスは2026年に完了する見込みです。
過去のミッションにおいても国際協調の成果は実証されています。嫦娥6号ミッションでは、フランス、欧州宇宙機関(ESA)、イタリアからの国際ペイロードに加え、パキスタンの小型衛星も搭載され、月の岩石活動の新たな側面やレゴリス中の水分含有量に関する重要な発見が報告され、嫦娥6号チームは国際宇宙航行連盟から世界宇宙航行賞を受賞しました。また、天問1号ミッションの軌道データはNASAや欧州宇宙機関と共有され、衝突回避能力の向上に貢献したほか、欧州宇宙機関のソーラーオービターとの共同太陽風研究も実施されました。
2026年から2030年を対象とする第14次五カ年計画においても、嫦娥7号、嫦娥8号の月探査ミッションや、天問3号の火星サンプルリターン計画が控えており、有人・無人宇宙探査における影響力の拡大を目指します。2025年5月に打ち上げられた天問2号探査機は、近地球小惑星2016 HO3と小惑星311Pを訪れる初の小惑星サンプルリターンミッションを実行中です。宇宙開発の進展は、技術力の証明であると同時に、異なる存在間の調和と相互理解の可能性を映し出す鏡でもあります。