マッコーリー辞書、2025年の「今年の言葉」に「AIスロップ」を選出、デジタルリテラシーの変遷を反映

マッコーリー辞書は、2025年の「今年の言葉（Word of the Year）」として「AIスロップ」を選出し、この栄誉は一般投票によるピープルズ・チョイス賞と同時に授与されました。この決定は、生成AIの急速な普及が社会の主要な側面を反映していることを示唆しています。マッコーリー辞書委員会は、「AIスロップ」を「生成AIによって作成された低品質なコンテンツであり、しばしば誤りを含み、ユーザーが要求していないもの」と定義しました。委員会は、2025年において、我々は「スロップ」、すなわち意味のある内容や有用性を欠く「AI生成スロップ」が何を意味するのかを理解するようになったと述べました。

この言葉の台頭は、オンラインリテラシーにおける新たなスキルセットの必要性を浮き彫りにしています。委員会は、「有意義な情報を見つけるために検索エンジニアになることを学んできたが、今やAIスロップをかき分けるためにプロンプトエンジニアになる必要がある」と指摘しました。この現象は、コンテンツの質よりも速度と量が優先されるデジタル環境の「エンシュティフィケーション（enshittification）」の一要素であるとの見解も示されています。さらに、この用語は「スロップガンタ（slopaganda）」や「コープスロップ（corpslop）」といった複合語にも利用されており、その影響力の広がりを示しています。

政治の領域では、2025年2月にドナルド・トランプ米国大統領が、トランプ政権によるガザ占領後の架空の状況を描いたAI生成動画を自身のソーシャルメディアアカウントで共有したことが注目されています。この動画には、トランプ氏自身が日光浴を楽しみ、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が隣で食事をする様子などが含まれており、その奇妙さが報じられました。トランプ大統領は、AI生成コンテンツについて「もし本当に悪いことが起こったら、AIのせいにする必要があるかもしれない」と述べており、自身のソーシャルメディア戦略において人工知能の利用を積極的に取り入れていることが伺えます。

2025年の最終候補に残った他の用語には、セマグルチド薬の使用による顔のたるみやシワを特徴とする状態を指す「オゼンピック・フェイス（Ozempic face）」や、中身が見えない収集品が入ったミステリーボックスを意味する「ブラインドボックス（Blind box）」がありました。また、委員会による名誉ある言及（Honourable Mentions）には、人間が通常行うタスクをAI駆動のロボットが代行することを指す「クランカー（Clanker）」や、医療分野における女性に対する根深い偏見を指す「メディカル・ミソジニー（Medical misogyny）」も選ばれました。特に「クランカー」は、アニメシリーズ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』（2008年～2014年）で普及した言葉であり、その現代的な再定義が示されました。

AI技術の進化に伴い、YouTubeは2025年7月15日より、独創性や付加価値を欠く「大量生産された、反復的、またはAI生成された」コンテンツを制作するクリエイターへの支払いを停止する措置を発表しました。これは、AIスロップがデジタルフィードを氾濫させ、質の高いコンテンツを押しやっていることへの業界の対応の一例です。ChatGPT自身も、この「AIスロップ」が年間最優秀語に選ばれたことは、人々がAI生成コンテンツの品質に対してより目が肥えてきている証拠であり、開発者に対して透明性を求める圧力を生んでいると分析しています。この動向は、デジタル時代における情報選別能力の重要性が増していることを示唆しています。