2025年8月、ドイツの失業者数が300万人を超え、10年以上にわたり初めてこの節目を突破しました。これは、国の経済が停滞期にあり、労働市場に影を落としていることを示す重要な指標です。連邦雇用庁（BA）の発表によると、8月の失業者数は前月比4万6千人増の302万5千人に達し、失業率は0.1ポイント上昇して6.4%となりました。これは、前年同月比では15万3千人の増加であり、経済の弱さが浮き彫りになっています。
この状況は、ドイツ経済が直面する複合的な課題を反映しています。春の四半期には国内総生産（GDP）が0.3%縮小し、過去2年間は景気後退に陥っていました。高騰するエネルギーコスト、米国の関税政策、そしてウクライナでの戦争に起因する世界的な経済の不確実性が、産業界、特に製造業に大きな負担をかけています。求人数も減少し、8月には63万1千件となり、前年比で6万8千件減少しました。これは、企業の採用意欲が鈍化していることを示唆しています。
連邦雇用庁の長官であるアンドレア・ナーレス氏は、この失業率の上昇を「夏の停滞」と表現し、企業が休暇後に採用を延期しているためだと説明しました。しかし、彼女は労働市場に「安定化の兆し」も見られるとしながらも、その力強さには疑問を呈しています。労働大臣のベーベル・バス氏は、世界経済の不確実性とウクライナでの戦争がドイツ経済の低迷に影響を与え続けていると指摘し、早急な対策が必要だと訴えました。
一方、首相のフリードリヒ・メルツ氏は、失業率の上昇は「驚くべきことではない」と述べ、政府はドイツ経済を活性化するための大規模な投資計画に注力していると強調しました。しかし、ドイツ雇用者協会連合会（BDA）の会長であるライナー・ドルガー氏は、300万人の失業者という数字を「恥ずべきこと」と断じ、政治的な停滞が原因だと非難し、「真の改革の秋」を求めています。
ドイツ経済は、構造的な課題にも直面しています。特に、熟練労働者の不足は深刻であり、2025年5月時点で163の職業が公式に不足またはボトルネック職業として認識されています。ドイツ経済研究所（IW）の予測では、熟練労働者を必要とする未充足の求人数は2024年の48万7千人から2028年には76万8千人に増加すると見込まれており、これは主に人口動態の変化によるものです。この人材不足は、多くの産業で企業の成長を妨げる要因となっています。
このような状況に対し、ドイツ政府は「メイド・フォー・ジャーマニー」イニシアチブを通じて2028年までに6,310億ユーロの投資を計画するなど、経済活性化に向けた取り組みを進めています。しかし、これらの対策が失業率の低下と経済の持続的な回復にどれだけ貢献するかは、今後の政策実行と世界経済の動向にかかっています。ドイツ経済は、変化への適応と構造改革を通じて、新たな成長軌道を見出すための重要な転換点に立たされています。