ブラジル全土で、議会の特権拡大を目指す「無法者法」と呼ばれる法案と、2023年1月8日の暴動に関与したボルソナロ支持者への恩赦の可能性に対し、数千人規模の国民が街頭に繰り出し、強い反対の意思を表明しました。この動きは、民主主義の根幹を揺るがしかねない立法措置に対する国民の深い懸念を浮き彫りにしています。
特に注目を集めているのは、下院が9月16日に可決した「無法者法」(PEC da Blindagem)です。この法案は、議員や元大統領に対する刑事訴追に議会の承認を義務付けるもので、批判者からは「無法者法」や「遮蔽法」と呼ばれています。過去には1988年から2001年にかけて同様の法律が存在し、その間、最高裁判所からの訴追申請250件のうち、わずか1件しか承認されなかったという記録があります。この歴史的背景は、今回の法案が立法府の責任と司法の独立性との間で緊張を生み出していることを示唆しています。法務大臣のリカルド・レヴァンドフスキ氏は、このような措置が「組織犯罪の議会への浸透」を招く可能性を警告しています。
さらに、ボルソナロ元大統領を含む2023年1月8日の連邦議会襲撃事件の関与者への恩赦案も、国民の怒りを買っています。ボルソナロ氏は最近、2022年の選挙結果を覆そうとしたクーデター計画を主導した罪で、最高裁判所から禁錮27年3ヶ月の実刑判決を受けています。上院議員フラビオ・ボルソナロ氏が恩赦を支持する一方、ルラ大統領は恩赦法案への拒否権を行使すると約束しており、この問題が政治的な対立を深めています。
9月21日、リオデジャネイロのコパカバーナ海岸をはじめ、ブラジル各地の十数都市で抗議集会が開催されました。リオでは、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、シコ・ブアルキといったブラジル音楽界の巨匠たちが、国民の声を代弁するかのようにパフォーマンスを披露しました。彼らは過去の軍事政権下でも、音楽を通じて抵抗の声を上げ、社会変革を促してきた歴史を持ちます。今回の参加は、単なる音楽イベントではなく、民主主義を守ろうとする市民運動の象徴として受け止められています。
専門家からは、ブラジルがアメリカ政治に見られるような、政治的分断がルール破りを常態化させる傾向に近づいているとの分析も出ています。しかし同時に、ブラジルの制度は連邦制、権力分立、多数の政党、そして独立した最高裁判所といった「権限を分散させる制度的組み合わせ」に根差した回復力を持っているとも指摘されています。今回の国民的な抗議活動は、こうした制度的な強さと、民主主義の規範が試される現代のブラジルが直面するパラドックスを浮き彫りにしています。国民一人ひとりの意思表示が、社会全体の成長とより深い理解への触媒となり、民主主義の未来を形作る上で重要な役割を果たしています。