微小重力下の燃焼物理学：ESA放物線飛行キャンペーンが解き明かす基礎原理

欧州宇宙機関（ESA）は、2025年9月にフランスのボルドーにて、第87回放物線飛行キャンペーンを成功裏に完了させました。この集中的な研究期間の目的は、重力の影響が事実上取り除かれた環境下で、基礎的な物理プロセスを詳細に調査することにありました。調査の中心となったのは、ごく一般的な物体であるろうそくの炎です。地上では単純に見える炎も、重力による制約から解放されると複雑な研究対象となり、微小重力下での燃焼メカニズムに対する理解を深めるための重要な鍵となります。

「ゼロG」マニューバとも呼ばれる放物線飛行では、航空機が特定の軌道を描くことで、一回の弧を描く間に約22秒間の模擬微小重力状態を作り出します。通常の地上環境では、炎から発生する熱によって周囲の空気が上昇し、対流が発生します。この対流が、炎を我々がよく知る涙滴型（ティアドロップ型）のシルエットに形作っています。しかし、重力が存在しない状況下では、この浮力（対流を引き起こす力）が消失します。研究者たちは、重力の影響が取り除かれた結果、炎がより球状の形状を帯びることを観察しました。これは、表面張力と拡散が支配的な力となることの直接的な証拠です。

ESAの生命維持・物理科学研究所を代表するジャック・ファン・ローン氏は、この研究部門を主導しました。ファン・ローン氏は、実験を重力の絶え間ない牽引力から切り離すことで、燃焼プロセスにおける対流や毛細管現象といった、他の微妙な力の相互作用を分離し、研究する比類のない機会が得られると述べています。この綿密な作業は、自然界の基礎法則を探求するために微小重力プラットフォームを活用する、ESAの継続的な科学的探求の一環です。得られたデータは、物理的原理の理解を洗練させ、流体力学や、より効率的な燃焼システムを設計するための工学分野に大きな進歩をもたらすと期待されています。

関連する航空宇宙研究は、これらの発見が長期的な宇宙ミッションにとって極めて重要であることを強調しています。国際宇宙ステーション（ISS）で以前に行われた研究では、微小重力下での炎の挙動が、芯の素材や燃料の組成に大きく影響されることが示されています。一部のISS実験では、酸素の供給が慎重に管理されない場合、浮力による空気の流れがないために、炎が時期尚早に消滅する可能性があることが明らかになりました。これは、炎の形状が変化したとしても、効率的な反応物質の混合という根底にある要件が、燃焼を維持するために依然として不可欠であることを浮き彫りにしています。科学コミュニティに継続的な新しいデータを提供するため、次回の放物線飛行キャンペーンはすでに2025年11月に予定されています。