私たちの体には、約24時間周期で様々な生理活動を調整する「体内時計」が備わっています。この体内時計の働きを最大限に活かし、消化吸収の最適化や健康増進を目指すのが「クロノ栄養学(時間栄養学)」です。これは、単に何を食べるかだけでなく、「いつ食べるか」というタイミングを重視する栄養学の新しいアプローチであり、2017年のノーベル生理学・医学賞で注目された体内時計の研究とも深く関連しています。
クロノ栄養学の基本的な考え方は、私たちの体内時計が地球の自転周期である24時間よりもわずかに長い約24.5時間周期で動いていることにあります。このずれを毎日リセットし、体のリズムを整えるためには、朝の光を浴びることと、規則正しい食事、特に朝食が非常に重要です。栄養士のジュリー・ボエット氏も指摘するように、朝食は体内時計の「主時計」をリセットする光の刺激と連携し、体の各臓器に存在する「末梢時計」を活動開始へと促す役割を果たします。朝食には、体内時計のリセット効果を高めるために、炭水化物とタンパク質をバランス良く摂取することが推奨されています。また、前日の夕食から翌日の朝食までの間に10〜12時間程度の「絶食時間」を設けることも、体内時計のリセットを助け、代謝を整える上で効果的とされています。
クロノ栄養学では、体内時計の働きに合わせて、1日の食事を以下のように構造化することを提案しています。まず、朝食は一日の活動のエネルギー源となるため、炭水化物とタンパク質をしっかり摂ることが推奨されます。昼食は、午後の活動に必要なエネルギーを補給するため、主食を中心としたバランスの良い食事を摂ります。そして、夕食は、夜間に脂肪合成を促進するホルモン(BMAL1など)の働きを考慮し、消化が良く軽い食事を心がけることが大切です。遅い時間の食事は、体内時計のリズムを乱し、脂肪の蓄積を促す可能性があるため、就寝の2〜3時間前までに済ませることが望ましいとされています。
このクロノ栄養学の実践は、消化機能の改善、睡眠の質の向上、さらには心臓病のリスク低減といった健康上のメリットをもたらすことが期待されています。専門家たちは、食事のタイミングを意識することで、体内時計の乱れによる不調を防ぎ、より健康的な生活を送ることができると指摘しています。日々の食事のタイミングを体内時計のリズムに合わせることは、私たちの体が本来持っている調和を取り戻し、心身の健やかさを育むための、実践的で効果的な方法と言えるでしょう。