1986年に南極のフィルヒナー・ロンネ棚氷から分離し、約40年間ウェッデル海に留まっていた巨大氷山A23aが、その長い旅路を終え、2025年9月2日現在、大部分が溶け去ったと見られています。
A23aは、最大時にはグレーター・ロンドンの2倍以上の面積を持ち、約1兆トンもの重さがあったと推定されています。2024年末に始まった北上移動は、2025年3月にサウスジョージア島付近で座礁するという出来事を経て、同年5月には衛星観測により約520平方キロメートルの質量が失われたことが確認されていました。ロシアの北極・南極学術調査研究所によると、2025年9月初めには面積が約1750平方キロメートルにまで縮小していました。
この氷山の移動と融解過程で放出される栄養塩が海洋生態系に与える影響が科学者たちによって注目されてきました。当初はペンギンやアザラシといった地域の野生生物への影響が懸念されましたが、氷山の進路が彼らの主要な採餌場と大きく交錯しなかったため、大きな生態系への混乱は回避されたようです。
NASAのAqua衛星に搭載されたMODISや欧州宇宙機関(ESA)のCopernicus Sentinel-3ミッションなど、様々な宇宙機関がA23aの軌跡と変化を観測してきました。これらの観測データは、気候変動が極域に与える影響を理解するための貴重な情報源となっています。
A23aの旅は、極域で進行中のダイナミックなプロセスを浮き彫りにします。氷山が最終的に融解していく現象は、南極の自然なサイクルの一部ですが、A23aの規模と長期間にわたる旅は、地球の気候システムにおける氷の役割と、それがどのように変化しているかについての深い洞察を与えてくれます。その終焉は、地球の自然な営みの一部であると同時に、温暖化する海水温の影響を受けていることを示唆しています。