ペルーのオカサヘ砂漠で、約1200万年前の海洋イルカのほぼ完全な骨格化石が発見され、古生物学界に大きな興奮をもたらしています。この発見は、古代の海洋生物の生態や進化の過程を理解する上で貴重な手がかりとなります。
発見された化石は、体長約3.5メートルのロマセトゥス(Lomacetus)と呼ばれる古代イルカの一種と特定されました。この化石は驚くほど保存状態が良く、その詳細な構造から、この種がどのように移動し、何を食料とし、どのくらいの期間生きていたのかといった、かつてないほどの情報が期待されています。この発見は、ペルーの著名な古生物学者であるマリオ・ウルビナ氏らが主導した調査によるものです。
ロマセトゥスは、現代のペルー沿岸で見られるイルカやネズコ(porpoise)と類似点を持つことから注目されています。この化石はケントロドン科(Kentriodontidae)に属すると考えられており、この科は現代のハクジラ類(odontocetes)の進化における重要な中間段階を示すグループとされています。ケントロドン科は新生代の漸新世から鮮新世にかけて生息し、その多様な形態は初期のイルカやネズコの進化における複雑な系統樹を示唆しています。この発見は、ロマセトゥスがかつて考えられていたよりも広範囲に分布していた可能性を示唆しており、中新世の海洋生物の移動経路に関する新たな問いを投げかけています。
オカサヘ砂漠は、その豊かな化石層で古生物学者にとって「化石の楽園」として知られています。約1200万年前、この地域は広大な海であり、多様な海洋生物の生息地となっていました。この砂漠に広がるピスコ層(Pisco Formation)は、世界でも有数の「化石集積地(Fossil-Lagerstätte)」として高く評価されており、サメ(メガロドンを含む)、ペンギン、クジラ、イルカ、海鳥、海洋ワニ、さらには四足歩行のクジラの化石など、驚くほど保存状態の良い海洋生物の化石が数多く発見されています。この地域特有の地質学的条件が、これらの古代の遺骸を数百万年にわたって見事に保存してきました。
オカサヘ砂漠からは、今回発見されたロマセトゥス以外にも、2024年には約1600万年前の古代アマゾン川イルカの頭蓋骨(ペバニスタ・ヤクルナ、Pebanista yacuruna)が発見されるなど、重要な発見が続いています。これらの発見は、中新世の海洋生物の多様性や、極端な環境変動への適応過程を理解する上で不可欠な情報源となっています。また、約900万年前のホホジロザメの近縁種の化石もピスコ盆地で発見されており、この地域の古生物学的な重要性を一層高めています。
このロマセトゥスの化石は、今後詳細な分析が行われ、ペルーの国立博物館に収蔵される予定です。この貴重な発見は、古生物学、地質学、進化生物学の分野に新たな研究の道を開くとともに、ペルーの豊かな自然遺産への理解を深める機会となるでしょう。同時に、このような貴重な化石資源を保護し、将来の研究のために保全していくことの重要性も改めて浮き彫りにしています。