食品業界大手のクラフト・ハインツは、2015年の合併から10年を経て、事業を2つの独立した公開会社に分割する計画を正式に発表しました。この戦略的再編は、長年の業績不振と変化する消費者嗜好に対応し、各ブランドの潜在能力を最大限に引き出すことを目的としています。分割は2026年後半の完了を目指しており、これにより、かつて巨大コングロマリットとして成功を収めた同社は、より焦点を絞った事業体へと生まれ変わります。
新設される2つの会社のうち、一つは「グローバル・テイスト・エレベーション・カンパニー(Global Taste Elevation Co.)」と仮称され、ハインツのケチャップ、フィラデルフィアのクリームチーズ、クラフトのマカロニ&チーズといった、ソース、調味料、保存食料品に注力します。2024年の純売上高は約154億ドルを見込んでおり、その約75%はソース、スプレッド、調味料からの収益です。この事業体は、世界的な拡大と成長ポテンシャルの高いカテゴリーでのイノベーションを推進します。
もう一方の会社は「ノースアメリカン・グロサリー・カンパニー(North American Grocery Co.)」と仮称され、オスカー・マイヤーのソーセージ、ランチアブルのボックスミール、クラフトのプロセスチーズといった、北米の食料品・日用品を扱います。こちらは2024年の純売上高が約104億ドルと予測されており、カテゴリー別でトップまたは2位のブランドが売上の約75%を占めています。現クラフト・ハインツのCEOであるカルロス・アブラムス=リベラ氏が、この北米事業のCEOに就任する予定です。
今回の分割は、2015年にウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイと3Gキャピタルが主導した、クラフト・フーズとハインツの合併という歴史的な出来事を事実上巻き戻すものです。当時の合併は、規模の経済を追求し、コスト削減と効率化を通じてシナジー効果を生み出すことを目指していました。しかし、合併後、消費者の健康志向の高まりや、より手頃な価格帯のプライベートブランド製品へのシフトといった市場の変化に、同社は十分に対応できませんでした。特に2019年には、オスカー・マイヤーやクラフトといった主要ブランドの価値を154億ドルも減損処理するという厳しい現実にも直面しました。合併以降、同社の株価も低迷傾向にあり、2017年のピーク時と比較して大幅に下落しています。
クラフト・ハインツのミゲル・パトリシオ執行会長は、「現在の複雑な組織構造では、資本配分や戦略的優先順位の設定、そして最も有望な分野での規模拡大が困難になっています。2社に分割することで、それぞれのブランドの潜在能力を最大限に引き出し、より良い業績と長期的な株主価値の創造を促進できると確信しています」と述べています。
この動きは、ケロッグやキューリグ・ドクターペッパーといった他の大手食品企業が近年、事業分割を進めている業界全体のトレンドとも一致しています。これらの企業もまた、より集中的な事業運営と迅速な市場対応を目指しています。クラフト・ハインツのカナダ事業においては、同社が販売する製品の約70%をカナダ国内で生産しているという事実も、地域に根差した事業展開を示唆しています。今回の分割が、各事業体の機動性を高め、変化の速い市場環境への適応力と、消費者ニーズに即した革新を加速させる触媒となることが期待されています。この再編を通じて、クラフト・ハインツの象徴的なブランド群が、それぞれの分野で新たな成長軌道を描くことが注目されます。