2025年は量子コンピューティング、特に耐故障性量子コンピューティング（FTQC）の分野において、理論から実践へと移行する画期的な年となっています。この進歩は、業界全体における戦略的な提携、大規模な投資、そして技術的なブレークスルーによって牽引されています。
IBMとAMDの提携：次世代コンピューティングアーキテクチャの融合
2025年8月、IBMとAMDは、IBMの量子技術とAMDの高性能コンピューティング（HPC）能力を統合する提携を発表しました。この協力関係は、「量子中心スーパーコンピューティング」と呼ばれる新しいコンピューティングアーキテクチャの開発を目指しており、現在のシステム能力を超える新しいコンピューティングアーキテクチャとアルゴリズムの創出を目的としています。AMDのハードウェアは、耐故障性量子コンピューティングの重要な要素であるリアルタイムのエラー訂正能力を提供する可能性を秘めています。両社は、年内にハイブリッド量子古典ワークフローを展開する初期デモンストレーションを計画しており、この融合がもたらす可能性を示します。IBMは、2029年までに世界初の本格的な耐故障性量子コンピューターである「Starling」プロセッサー（200論理量子ビットを搭載）の実現を目指しており、そのための革新的なアルゴリズムと「バイシクルアーキテクチャ」を開発中です。これは、科学から工学への移行を示す重要な一歩と見なされています。
QuEra Computing：論理量子ビットレベルでのブレークスルー
中性原子量子コンピューティングのリーダーであるQuEra Computingは、GoogleのQuantum AI事業部などからの2億3,000万ドル以上の資金調達を達成しました。同社は、信頼性の高い計算を実現する耐故障性システム開発に注力しています。2025年7月には、論理量子ビット上で「マジックステート蒸留」を実験的に実証しました。これは、複雑な量子演算に不可欠な、エラー耐性のある量子コンピューティングを実現するための重要なステップです。この成果は、中性原子アレイの再構成可能なアーキテクチャを活用したもので、エラー訂正された論理空間内での量子プログラム実行を可能にする方法を示しています。
Pasqal：耐故障性への加速パスを示すロードマップ
中性原子量子コンピューティングのもう一つの先駆者であるPasqalは、2025年のロードマップを発表しました。この戦略は、QPU（量子処理ユニット）の大規模展開、産業関連問題における量子優位性（QA）の実証、そして耐故障性量子コンピューティングへの加速パスという3つの柱に焦点を当てています。Pasqalは、2025年には2つの論理量子ビット、2027年には20の論理量子ビット、そして2029年から2030年にかけては100から200の高忠実度論理量子ビットの実現を目指しています。同時に、2028年までに10,000個の物理量子ビットへのスケーリングも計画しており、耐故障性コンピューティングへの明確な道筋を示しています。
中性原子技術の優位性と耐故障性への道
これらの進歩の背景には、中性原子量子コンピューティングの持つ固有の利点があります。中性原子は「自然界の完璧な量子ビット」と称され、製造上の欠陥がなく、高いスケーラビリティ、精密な制御、そして室温での動作を可能にします。これにより、複雑な量子アルゴリズムやエラー訂正メカニズムの実装が容易になります。量子コンピューティング業界全体は、ハードウェアとソフトウェアの進歩、そして公的・民間部門からの投資の増加により、2025年末までに10億ドルを超える収益を上げると予測されています。これは、量子コンピューティングが単なる研究対象から、実用的なソリューションへと移行していることを示唆しています。
これらの企業による継続的な努力と技術革新は、量子コンピューティングが直面する課題を克服し、科学、医療、金融、物流など、多岐にわたる分野で前例のない可能性を解き放つ未来を形作っています。2025年は、この変革的な技術の進化における重要な節目として記憶されるでしょう。