タイ政府は、観光セクターの活性化を目指し、2025年後半から18ヶ月間にわたり「TouristDigiPay」という名称の実証実験プログラムを開始します。この取り組みにより、外国人観光客は保有する仮想通貨をタイバーツに換金し、国内での様々な支払いに利用できるようになります。このプロジェクトは、タイ証券取引委員会(SEC)、財務省、マネーロンダリング対策局(AMLO)、観光スポーツ省など、複数の政府機関が連携して推進しています。
タイ経済にとって観光業は極めて重要な柱であり、GDPの約12%を占めています。しかし、近年はパンデミックの影響や一部の主要市場からの観光客減少により、訪問者数の回復が課題となっていました。国家計画庁は2025年の外国人観光客数の予測を下方修正しており、この状況を打開するため、政府は新たな決済手段の導入を模索しています。この「TouristDigiPay」プログラムは、仮想通貨保有者という新たな層の観光客を呼び込み、消費を刺激することで、経済に最大10%の追加効果をもたらし、1,750億バーツ以上の経済効果を生み出すことが期待されています。
このプログラムの核心は、仮想通貨を直接商品やサービスの支払いに使用するのではなく、タイ国内のライセンスを持つ仮想通貨取引所を通じてタイバーツに換金するプロセスにあります。換金されたバーツは、観光客が利用するオンラインウォレットに送金され、これにより全ての取引がタイバーツで行われることが保証され、国内の金融規制への準拠が図られます。財務大臣であるピチャイ・チュンハヴァジラ氏は、「タイでの滞在を容易にするためにあらゆる措置を講じたい。この新しいプログラムは、海外からの訪問者の現金やクレジットカード利用に代わる新たなイノベーションを提供する」と述べています。
参加する観光客には、厳格な本人確認(KYC)およびマネーロンダリング対策(AML)のプロセスが適用されます。また、不正利用を防ぐため、月間の利用上限額が設定されるほか、直接の現金引き出しは制限されます。加盟店側にも「Know Your Merchant(KYM)」と呼ばれる検証プロセスを経て、月50万バーツまでの受け入れが可能な場合と、小規模事業者向けの5万バーツまでの制限が設けられています。これらの安全策は、システムが旅行関連の支出にのみ使用され、金融システムの安定性が維持されることを目的としています。
この実証実験は、仮想通貨が主流の旅行決済にどのように貢献できるかを示す重要なテストケースとなるでしょう。タイ政府は、イノベーションを促進し、デジタル資産の利用を支援することで、観光産業の活性化と経済全体の強化を目指しています。この取り組みは、テクノロジーを活用して観光体験を向上させ、より多くの旅行者を惹きつけるための、タイの先進的なアプローチを示すものと言えます。