トランプ政権は、大半の関税を違憲とする連邦巡回区控訴裁判所の判決に対し、米国最高裁判所への上訴手続きを進めています。2025年8月29日、連邦巡回区控訴裁判所は、大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき広範な関税を課す権限を超えたとする7対4の判決を下しました。政権側は、これらの関税が国家安全保障と経済的安定のために不可欠であると主張しており、最高裁の判断を待つ状況です。
合衆国憲法第1条第8節は、連邦議会に租税、関税、輸入税および物品税を「賦課し徴収する権限」を与え、外国との通商を規制する権限を付与しています。しかし、歴史的に見ると、特に1930年代以降、議会は貿易交渉の促進や経済状況への対応を目的として、関税設定の権限を大統領に委譲してきました。1934年の相互貿易協定法は、大統領に関税率を変更し、二国間貿易協定を交渉する権限を与えました。これにより、大統領は関税を外交政策や経済的交渉の手段として用いることが可能になりました。
今回の連邦巡回区控訴裁判所の判決は、IEEPAが国家の緊急事態下で大統領に輸入を「規制する」権限を付与しているものの、関税の賦課、特に見られたような規模と期間の関税を課す権限が明示的に含まれていないと指摘しました。裁判所は、この法律が関税に言及しておらず、また、大統領の権限に明確な制限を設けている他の法律とは異なるとの見解を示しました。さらに、裁判所は「主要な問題」原則に触れ、このような広範な経済的影響を持つ措置には議会の明確な承認が必要である可能性を示唆しました。
トランプ政権は、最高検察官代理(Solicitor General)のD.ジョン・サウアー氏を通じて、これらの関税が国家安全保障、経済的安定、国内製造業の強化、そして貿易交渉の促進に不可欠であると強く主張しています。政権側は、この判決が「米国を一方的に武装解除し、他国がアメリカ経済を報復貿易政策のなすがままにする」危険性があると懸念しており、最高裁に対し、2025年11月初旬の審理を目指した迅速な審査を求めています。
現在、この関税は少なくとも2025年10月14日まで効力を維持していますが、最高裁がこの事件を受理するかどうかの決定を待つことになります。もし最高裁が下級審の判決を支持した場合、これは行政府が大統領の政策手段として関税を用いる能力に大きな影響を与える可能性があり、徴収された関税の返還を求める事態にもつながりかねません。この法的な争いは、国際貿易関係における権限の均衡と、経済的安定を追求する上での明確な指針を定める機会を提供しています。