ドイツでは、ウクライナからの避難民に対する支援策を巡り、国内で活発な議論が続いている。2025年6月1日より、ウクライナ難民は連邦政府と各州の合意に基づき、「Bürgergeld」(市民手当)を通じて支援を受けている。しかし、バイエルン州首相のマルクス・ゼーダー氏は2025年8月3日、2025年4月1日以降にドイツに入国したウクライナ難民に対し、難民申請者給付法に基づく支援額の削減を提案した。ゼーダー氏は、ドイツの支援が手厚すぎることが就労意欲を削いでいる可能性を指摘している。
この提案は連立政権内でも議論を呼んでおり、一部からは既存の連立合意を超えたものであるとの声も上がっている。現在の合意では、2025年4月1日以降の新規入国者に対しては、より手厚いBürgergeldではなく、難民申請者給付法に基づく支援に切り替えることが定められているが、ゼーダー氏の提案は、既にドイツに滞在している難民にも適用範囲を広げることを示唆している。欧州委員会は2025年6月、一時保護指令を2027年3月まで延長する提案を行っており、ドイツ国内の議論は欧州全体のウクライナ難民への対応見直しとも連動している。ドイツはロシアによる侵攻開始以来、100万人以上のウクライナ難民を受け入れており、その支援には多大な財政的負担が伴っている。2024年にはBürgergeld制度全体で約469億ユーロが支出され、そのうちウクライナ難民への支援は約63億ユーロに上るとされている。単身成人へのBürgergeldの月額は約563ユーロに加え、家賃や健康保険もカバーされている。一方、専門家の分析では、2025年5月時点でのウクライナ難民の雇用率は約34.9%であり、社会保障給付が就労率に与える影響は限定的であるとの見方もある。ウクライナ大統領のドイツ駐箚大使は、難民支援の削減提案に対し、ウクライナ難民を「スケープゴート」にしないよう訴えている。現時点では、ドイツにおけるウクライナ難民への社会保障政策に大きな変更は実施されていないが、支援の持続可能性や難民の社会統合、ドイツ社会全体の経済的・社会的バランスをいかに維持していくかという、より広範な問いが投げかけられている。