シンガポールで開催されたアジア太平洋石油会議（APPEC）2025において、マーリスクの石油取引部門CEOであるエマ・マザリ氏は、世界の石油市場に対する懸念を表明しました。同氏は、需要の伸びが限定的である一方でOPECプラス（OPEC+）による生産増が続いている状況を指摘し、原油価格の下落リスクが高まっていると警告しました。さらに、2030年以降には低炭素バンカー燃料の供給が大幅に増加するとの見通しも示しました。
マザリ氏は、2025年10月からOPEC+が日量137,000バレルの生産増を開始する計画に言及しました。これは、以前の生産抑制策を段階的に解除する戦略の一環であり、市場シェアの回復を目指す動きと見られています。しかし、国際エネルギー機関（IEA）は、2025年10月から2026年末にかけて、供給が需要を日量300万バレル上回ると予測しており、OPEC+の増産発表はこの予測をさらに強める形となりました。一部のアナリストは、この増産が市場に織り込み済みであるとの見方を示す一方で、供給過剰のリスクを指摘する声もあります。
このような市場環境の中、マーリスクは将来のエネルギー転換を見据えています。マザリ氏は、2030年以降、海運業界における低炭素燃料へのシフトが加速し、低炭素バンカー燃料の供給が大幅に増加すると予測しています。これは、国際海事機関（IMO）による環境規制の強化や、持続可能な輸送への関心の高まりを背景とした動きです。LNG、バイオ燃料、メタノールといった代替燃料への移行は、業界全体のカーボンフットプリント削減に向けた重要な取り組みとなっています。
過去の動向を見ると、OPEC+は市場シェア維持のために生産量を調整してきました。2025年に入ってからも、同グループは生産量を段階的に増やしており、これは原油価格への下方圧力を加えています。特に、米国やカナダなど非OPEC諸国の生産増加も、市場の需給バランスに影響を与えています。このような状況下で、OPEC+の生産戦略は、市場参加者にとって引き続き注視すべき重要な要素となっています。
マザリ氏の分析は、現在の石油市場の複雑な力学と、将来のエネルギー市場への移行という二つの側面を浮き彫りにしています。原油価格の変動リスクと、低炭素燃料への移行という二つの大きな流れが交錯する中で、業界は新たな戦略と適応を求められています。この変化は、エネルギー供給業者だけでなく、海運業界全体にとっても、新たな機会と課題をもたらすでしょう。