フィリピン外務省は9月11日、中国が南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島)に国家級自然保護区を新設すると発表したことに対し、強く抗議する声明を発表しました。フィリピン側は、この中国の決定が国際法に違反し、同国の権利と利益を侵害するものだと主張しており、この地域における緊張が再び高まっています。
フィリピン外務省は声明で、スカボロー礁は「長年にわたりフィリピンが主権と管轄権を有する」地域であると強調し、中国に対し、この計画を直ちに撤回するよう求めています。フィリピンの国家安全保障顧問は、この自然保護区の設定は「最終的な占領への口実」であると指摘しており、環境保護という名目とは裏腹に、中国が領有権主張を強化する意図があるとの見方を示しています。これは、2012年に中国がスカボロー礁の実効支配を確立して以来、両国間で続く領有権紛争の一環として捉えられています。
中国国務院は9月10日、スカボロー礁に国家級自然保護区を新設する計画を承認したと発表しました。中国外務省の報道官は、同礁が「固有の領土」であり、自然保護区の設定は主権の範囲内であると主張し、フィリピンの抗議を「不合理な非難」として退けました。中国側は、この措置が生態系の多様性、安定性、持続可能性を維持するための重要な保証であると説明しています。
この動きは、戦略的に重要な南シナ海における中国の海洋進出の一環として注目されています。過去には、2025年8月には中国海警船がフィリピン船を排除し、2024年6月には中国軍ヘリコプターがフィリピン航空機に接近する事案が発生するなど、スカボロー礁周辺では両国間の対立が繰り返されてきました。2016年の常設仲裁裁判所による、中国の「九段線」の法的根拠を否定する判決にもかかわらず、中国は南シナ海における広範な海洋権益の主張を続けています。
フィリピン国防大学の専門家らは、中国のこのような行動は、単なる環境保護ではなく、地域の地政学的な影響力拡大と領有権主張の強化を目的とした戦略的な動きである可能性を指摘しています。この地域の安定にとって、国際法と規範の遵守が不可欠であるという認識が広がる中、フィリピンは米国との防衛協力を含む同盟国・パートナー国との連携を強化し、自国の主権と海洋権益を守るための外交的・戦略的な対応を進めています。この一件は、南シナ海における国際秩序と地域協力のあり方について、さらなる議論を呼び起こすものとなるでしょう。