ガザ地区の人道危機が深刻化する中、欧州連合(EU)加盟国間ではイスラエルに対する制裁措置を巡り意見の相違が見られます。欧州委員会がイスラエルへの制裁案を提示しましたが、加盟国の足並みが揃わず実施には至っていません。しかし、ドイツはEU全体の枠組みとは別に、独自の措置としてイスラエルへの武器輸出を停止すると発表しました。この動きは、ガザ市への軍事作戦拡大というイスラエルの計画に対する懸念から生じました。ドイツのメルツ首相は、イスラエルの自衛権と人質解放の重要性を認めつつも、ガザでの軍事行動の激化が目標達成を困難にしているとの見解を示しました。そのため、ドイツ政府は「当分の間、ガザ地区で使用される可能性のある軍事装備品の輸出承認を停止する」と表明しました。この決定は、ドイツのイスラエルに対する長年の支持からの大きな転換点と見られています。
他のEU諸国もそれぞれ異なるアプローチを取っています。英国は、ガザでのイスラエルの軍事拡大を理由に、イスラエルとの自由貿易協定交渉を停止しました。英国のラミー外務大臣は、ガザでの出来事が両国関係を損なっていると指摘しました。アイルランドでは、占領地からの物品輸入を禁止する法案が内閣に提出され、審議が進められています。この法案が可決されれば、占領地からの物品輸入が犯罪とみなされることになります。オランダでは、5月18日から6月15日にかけてハーグで「レッドライン」と呼ばれる大規模な抗議デモが行われました。このデモには15万人以上が参加し、イスラエルへの制裁やEU・イスラエル連合協定の停止、ガザへの人道支援アクセスを要求しました。これはオランダ史上最大規模のデモの一つとされています。
国際的な舞台でも動きがありました。7月15日には、国際司法裁判所(ICJ)が南アフリカから提起されたジェノサイド(集団殺害)に関する訴訟で、暫定的な措置を採用しました。また、国際刑事裁判所(ICC)は、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相に対し、戦争犯罪および人道に対する罪の容疑で逮捕状を発行しました。これらの出来事は、ガザ地区の人道危機とイスラエルによる戦争犯罪疑惑に対する国際社会の複雑で断片的な対応を浮き彫りにしています。EU加盟国間の意見の不一致は、ブロックとしての外交的影響力を弱めていますが、一方で、個々の国々による独立した行動や市民社会からの強い圧力は、より強力な措置を求める声の高まりを示しています。国際司法機関の関与は、疑惑の重大性と国際的な法的説明責任の可能性を示唆していますが、これらの手続きが実際にどのような影響をもたらすかは、今後の展開を待つ必要があります。