2025年8月12日の夜、アメリカ東海岸沿いの住民たちは、空に現れた異常な光を目撃し、その発生源について様々な憶測が飛び交いました。ソーシャルメディアには、ブーメランや「Wu-Tang Clan」のロゴに似た、揺らめく白い形状の写真や動画が共有されました。一部では宇宙人やドローンではないかとの声も上がりましたが、フランクリン・インスティテュートの主任天文学者であるデリック・ピッツ氏が、この現象の真相を明らかにしました。
ピッツ氏によると、これらの光はほぼ同時刻に実施された2回のロケット打ち上げによるものでした。1回目は、フランス領ギアナのクリュ宇宙基地から日本時間13日午前9時37分(現地時間12日午後8時37分)に打ち上げられた欧州宇宙機関(ESA)のアリアン6ロケットです。このミッションは、気象・気候観測衛星「メトプ-SGA1」を極軌道、地球から約800キロ上空へ投入しました。メトプ-SGA1は、次世代の欧州極軌象衛星の最初の1基であり、天気予報や気候変動の監視に不可欠なデータを提供します。
約20分後の日本時間13日午前9時56分(現地時間12日午後8時56分)には、フロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地から、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)のヴァルカンロケットが打ち上げられました。このミッション「USSF-106」は、アメリカ国防総省の実験衛星「ナビゲーション・テクノロジー・サテライト3(NTS-3)」を静止トランスファ軌道へ投入しました。NTS-3は、GPSのジャミングやなりすましに対する耐性を向上させるための実験衛星です。
ピッツ氏は、これらのロケットの飛行経路が大西洋上を通り、東海岸から十分に観測可能な範囲であったと指摘しました。特に北東部では、フロリダや西海岸のように頻繁にロケット打ち上げを目にする機会が少ないため、今回の光景は珍しいものだったと説明しています。ロケットの排気ガスに含まれる氷の結晶が、高高度で太陽光を反射して「トワイライト現象」と呼ばれる光の渦やらせん状の模様を作り出した可能性も指摘されています。これは、日没後の薄明かりの中で、地上は暗闇でも上空高くは太陽光に照らされているために発生する現象です。
今回の2回のロケット打ち上げは、宇宙天気予報の精度向上や、より強固な衛星ナビゲーションシステムの開発といった、宇宙開発における重要な進歩を示すものでした。これらのミッションは、地球の気象をより深く理解し、私たちの生活をより安全で豊かなものにするための、科学技術の進歩を象徴しています。