フォード F-150、巧妙な窃盗対策としてリモートエンジン停止機能をセキュリティ強化に導入

フォード・モーター・カンパニーは、巧妙化する車両窃盗の手口に対抗するため、F-150ピックアップトラックのセキュリティ技術を大幅に強化した。この最新の取り組みは、自動車メーカーと窃盗犯との技術競争における重要な一歩と位置づけられている。

この強化策の中核を成すのは、フォードの「Stolen Vehicle Services（盗難車両サービス）」に含まれる「Start Inhibit（始動抑制）」機能である。この機能は、キーフォブが車内にあってもエンジンの始動を遠隔で阻止するよう設計されており、キーの複製や不正なイグニッション操作を試みるプロの窃盗団を標的としている。このセキュリティパッケージは2024年モデルのF-150で導入され、2025年モデルではF-250スーパーデューティにも拡大適用された。2026年モデルでは、さらなる車種への展開が計画されている。この高度な保護機能は、1年間の無料トライアル期間終了後、米国の顧客に対して月額7.99ドルで提供される。

セキュリティ強化の背景には、全米的な車両盗難の動向がある。全米保険犯罪局（NICB）の分析によれば、2025年上半期の車両盗難件数は、2024年同期比で23%減少したが、F-150のような人気車種は依然として窃盗団の主要なターゲットであり続けている。2025年上半期において、F-150は報告された盗難件数で7位にランクインし、4,996件の盗難が記録された。フォード・セキュアのゼネラルマネージャーであるクリスチャン・モラン氏は、F-150の販売台数の多さが窃盗の標的となる大きな要因であると指摘している。特に、トラックの荷台に積まれた高価な工具類が窃盗の動機となることが多いと説明されている。

Stolen Vehicle Servicesは、オーナーが車両の不正な侵入や移動を検知した場合、スマートフォン経由でアラートを受け取れる機能も備えている。盗難が発生した場合、オーナーはまず警察に通報し、犯罪参照番号を取得した後、フォードの専用コールセンターに連絡する。このコールセンターが警察と連携し、遠隔操作で「Start Inhibit」を作動させ、エンジンを停止させる。デトロイト警察の商業車両盗難課のイブラヒム・カキシュ氏は、犯行から1時間以内の早期回収が、車両の原形を留めたままの回収の可能性を高めるために極めて重要であると強調している。

国際自動車盗難捜査官協会（IAATI）のトーマス・バーク氏の見解では、現代の自動車窃盗は衝動的な犯行ではなく、車台番号（VIN）の付け替えや不正輸出を目的とした、高度に専門化された組織的な活動へと変貌を遂げている。この専門化の傾向は、セキュリティ技術の進化が窃盗の性質そのものを変化させていることを示唆している。例えば、2024年には全米で850,708台の車両が盗難に遭い、これは2023年のピーク時1,020,729台から減少したものの、依然として巨額の経済的損失をもたらしている。対照的に、1990年のニューヨーク市では年間196,000台もの車両が盗まれており、現在の状況は歴史的な視点から見ると改善傾向にあるとも言える。デトロイト市内の自動車盗難件数も2023年の9,260件から2024年には8,408件へと減少しており、地域レベルでの対策の有効性も示されている。

フォードのこの新しいセキュリティ対策は、法執行機関との緊密な連携を前提とした能動的な回収手段であり、高額な車両を狙うプロの犯罪集団に対する抑止力として機能することが期待されている。