第82回ヴェネツィア国際映画祭のオリゾンティ部門で、インドの映画監督アヌパルナ・ロイ氏が長編デビュー作「Songs of Forgotten Trees」で最優秀監督賞を受賞し、歴史を刻みました。オリゾンティ部門でインド人監督がこの賞を獲得したのは初めてのことです。
2025年9月1日にプレミア上映された同作は、ムンバイで暮らす二人の移民女性の生活に深く切り込み、都市での葛藤や個人的な旅路を描いています。アヌラーグ・カシュヤップ氏がプレゼンターを務め、ビビハンス・ライ氏、ロミル・モディ氏、ランジャン・シン氏がプロデュースを手掛けました。
ロイ監督は、世界中の女性たちにこの受賞を捧げ、映画が沈黙させられたり過小評価されたりしてきた人々への賛辞であることを強調しました。「Songs of Forgotten Trees」は2025年後半にインドで公開される予定で、世界の映画界に新たな重要な声を届けることが期待されています。
ロイ監督は西ベンガル州プルリアの出身で、幼少期は本よりも配給米を受け取るような環境で育ちました。13歳で結婚した幼馴染の喪失など、自身の経験が作品に色濃く反映されています。当初、両親は映画界への進出に反対していましたが、ロイ監督の揺るぎない決意と才能が、この偉業へと繋がりました。彼女の父親は、かつてロイ監督に「サタジット・レイになれるのか?」と尋ねたことがあると語っていますが、今では娘の成功を誰よりも誇りに思っています。
「Songs of Forgotten Trees」は、ムンバイのアパートで共に暮らす二人の女性、トオヤ(俳優志望で、ムンバイでの居場所を見つけようと奮闘している)とシュウェタ(部屋を貸し出している物静かな会社員)の関係性の変化を通して、都市の孤独と親密な疎外感を深く掘り下げています。二人の間には、当初の無関心が徐々に和らぎ、願望、秘密、そして憧れによって複雑化された、か弱いつながりが生まれていきます。ロイ監督は、繊細な演出で、他者を見るということ、そして最も親密な関係でさえ、いかにしばしばそれを見過ごしてしまうかについて、私たちに考えさせてくれます。
この映画は、ヴェネツィア国際映画祭のオリゾンティ部門において、18本の競合作品を抑えての受賞となりました。オリゾンティ部門は、新しい才能や革新的なストーリーテリングに焦点を当てたセクションであり、過去にはチャイタニヤ・タムハネ監督の「Court」やカラン・テジパル監督の「Stolen」といった高く評価されたインド作品も輩出しています。ロイ監督の今回の受賞は、インド映画界にとって画期的な出来事であり、彼女自身も今後注目すべき映画監督としての地位を確立しました。彼女の成功は、故郷や家族、そしてインド全土に誇りをもたらしています。