世界的なストリーミングサービスであるNetflixは、コンテンツ制作における生成AI(GenAI)の利用に関する包括的なガイドラインを策定し、発表しました。この指針は、社内チームだけでなく、ポストプロダクションやAI技術サービスを提供する外部ベンダーや下請け業者にも適用され、責任ある透明性の高いアプローチを求めています。
Netflixは、GenAIが映像、音声、テキスト、画像といった多岐にわたる分野で創造的な可能性を秘めていることを認識しており、ガイドラインでは、GenAIの意図された使用方法について、特に最終納品物、タレントの肖像権、個人データ、第三者の知的財産権に関わる場合には、Netflixの担当者への明確な情報共有を義務付けています。低リスクと見なされるシナリオについては5つの主要原則が示されていますが、不確実性や機密性が高い用途については、正式な書面による承認が強く推奨されています。個人データの利用、AI生成によるクリエイティブな成果物、タレントの表現、倫理的配慮が求められるケースは高リスクシナリオとして、エスカレーションが必要な事項として明記されています。
このガイドラインは、技術的な進歩への対応だけでなく、創造性と倫理のバランスを重視するNetflixの姿勢を反映しています。GenAIは、クリエイターが表現の幅を広げ、新たな物語の可能性を探求するための「価値ある創造的支援ツール」として位置づけられており、コスト削減のみを目的とするのではなく、作品全体の質を向上させるための手段として捉えられています。例えば、Netflixのアルゼンチン製作シリーズ「エターナル・アース」では、AIを活用したビル崩壊のVFXシーンが制作され、従来のVFXワークフローと比較して「10倍速く」完了し、制作予算内での実現を可能にしたと報告されています。
Netflixのこのようなガイドライン策定は、業界全体の標準を定めるものとしても注目されています。ガイドラインでは、AI生成コンテンツが「実際の出来事、人物、発言と誤解されるようなもの」を再現することを禁じており、視聴者の信頼維持とフィクションと現実の境界線の明確化を図っています。また、AIの利用は、俳優、脚本家、クルーといった組合員が通常行う作業を、適切な承認や合意なしに代替したり、実質的に影響を与えたりするものであってはならないと明記されています。これは、人間のクリエイターの役割と権利を尊重する姿勢の表れです。2024年にドキュメンタリー「ジェニファーは何をしたか」におけるAI生成画像の使用が批判を浴びたことを踏まえ、透明性と正確性への配慮が改めて強調されています。
Netflixは、AI技術の進化を創造的な探求の機会と捉え、その活用における明確な指針を示すことで、業界全体の健全な発展を目指しています。人間とAIが協調し、それぞれの強みを活かすことで、より豊かで深みのある物語体験を視聴者に提供していく未来が示唆されています。