ゲーテ大学フランクフルト校の物理学者チームは、マックス・プランク核物理学研究所との協力により、複雑な分子における量子ゼロ点運動を初めて直接可視化することに成功しました。2025年8月に発表されたこの画期的な研究は、絶対零度においても、分子内の原子がゼロ点エネルギーによって駆動される協調的で非ランダムな振動を示すことを明らかにしています。
ティル・ヤンケ教授率いる研究チームは、欧州XFELの超短パルス・高強度X線レーザーを用いて、ヨードピリジン分子に制御された爆発を引き起こしました。その結果生じた分子断片をカスタマイズされたCOLTRIMS反応顕微鏡で分析することにより、元の分子構造を再構築し、原子の微妙で相関的な動きを捉えることができました。この成果は、これまで推測されてきたものの直接観測されたことのない「原子の永遠のダンス」の直接的な証拠を提供します。
この発見は、基本的な量子力学の理解を深めるだけでなく、光化学反応の研究を前進させる可能性を秘めています。この研究では、ヨードピリジン分子(11個の原子で構成)の量子ゆらぎを測定し、分子イメージングにおける重要な節目となりました。この手法は、原子の動きだけでなく、さらに速い電子の動きも捉えることを目指しており、量子現象の理解に新たな次元をもたらします。
研究で用いられたクーロン爆発イメージングは、分子に強力なX線パルスを照射し、電子を剥ぎ取ることで原子核を正電荷にし、互いに反発させることで分子を爆発させる手法です。この爆発によって飛び散った断片をCOLTRIMS反応顕微鏡で検出・分析することで、元の分子構造と原子の動きを精密に再構築します。この技術は、これまで理論や数式でしか捉えられなかった量子世界の現象を、より具体的に理解することを可能にします。
この研究は、原子が個別に振動するのではなく、互いに連動し、固定されたパターンに従って動くことを示しています。これは量子化学では知られていましたが、これほど多くの原子からなる分子で直接測定されたのは初めてのことです。この発見は、材料科学や医薬品開発など、様々な分野に影響を与える可能性を秘めています。研究チームは、この技術をさらに発展させ、電子の動きの映像化にも挑戦する計画です。