小惑星リュウグウのサンプル分析から、リュウグウの母天体が形成から10億年以上もの長きにわたり液体の水を持っていた痕跡が明らかになりました。これは、小惑星における水の活動が太陽系の初期段階に限定されるという従来の理解に疑問を投げかけ、地球の海がどのように形成されたのかという問いに新たな光を当てる発見です。
リュウグウのサンプルに含まれるルテチウム-ハフニウム(Lu-Hf)同位体比の精密な分析により、母天体が誕生してから10億年以上経過した後も、内部で流体が浸透し、その同位体組成に変化を与えたことが示唆されています。この変化は、母天体への天体衝突によって地下の氷が溶け出し、液体の水となって流出した結果と推測されています。この事実は、小惑星が初期の太陽系で水を受け取っただけでなく、その後も長期間にわたって内部に水を保持し、活動していた可能性を示唆しています。
さらに詳細な分析からは、リュウグウのサンプル内の結晶構造の微細な隙間から液体の水そのものが発見されました。この水は塩分や二酸化炭素、そして生命の誕生に不可欠とされる有機物をも内包していました。この発見は、リュウグウの母天体が、単に水を含んだ鉱物を持つだけでなく、液体の水と生命の材料となりうる有機物を保持する、より複雑でダイナミックな環境を持っていたことを示しています。
Lu-Hf同位体時計の分析で見られた年代測定のずれは、リュウグウ母天体が形成から10億年以上もの間、氷の形で水を保持し続けていたことを強く裏付けています。この長期にわたる氷の存在と、その後の融解・流出というプロセスは、炭素質小惑星が地球に供給した水の総量が、これまでの推定値を2倍から3倍も上回る可能性を示唆しています。これは、初期の地球が受け取った水の量、そしてそれが現在の広大な海洋の形成にどれほど寄与したのかという理解を大きく塗り替える可能性を秘めています。
リュウグウは、太陽系形成初期の情報を色濃く保持する「始原的な小惑星」であり、その化学組成は太陽の組成に極めて近いものの一つとされています。このユニークな特性により、リュウグウは地球や他の惑星がどのように形成され、水や有機物がどのようにそれらの惑星に運ばれたのかを理解するための新たな基準点となります。炭素質小惑星が地球に水と生命の材料をもたらしたという長年の仮説を、具体的な物的証拠をもって裏付けるものと言えます。
リュウグウのサンプルから得られたこれらの発見は、宇宙における水の遍在性と、それが惑星形成のプロセスにおいて果たす役割の深遠さを示しています。過去の宇宙の出来事が、どのようにして現在の私たちの惑星の姿を形作ったのかを理解する上で、リュウグウは私たちに貴重な洞察を与えてくれる宇宙からのタイムカプセルなのです。