地球の気候変動緩和に貢献する技術として、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収・固定する「風化促進(Enhanced Weathering, EW)」が注目されています。これは、細かく砕いた岩石を利用して自然の風化プロセスを加速させるものです。
2025年2月に発表された研究によると、米国の農業分野でEWを導入した場合、2050年までに年間1億6000万トンから3億トンのCO2除去が見込まれており、国のネットゼロ排出目標達成に大きく寄与する可能性が示唆されています。当初はオリビンという鉱物が検討されていましたが、毒性への懸念から、現在では玄武岩がより安全な代替手段として好まれています。玄武岩はオリビンより風化速度は遅いものの、土壌や水質への影響が少なく、インドでの試験栽培では茶の収穫量が最大20%増加したという報告もあります。
この技術は、岩石の風化によって生成される炭酸水素イオンが最終的に海洋に運ばれ、そこで長期間にわたり炭素が固定されるという仕組みに基づいています。EWは、自然の地質学的プロセスを数百万年から数十年へと短縮させることで、大規模なCO2除去を可能にします。農地に細かく砕いたケイ酸塩岩石、特に玄武岩を散布することで、大気中のCO2と反応させ、安定した炭酸塩鉱物として固定します。玄武岩の風化は、カルシウムやマグネシウムなどの栄養素を土壌に供給し、土壌の健康と肥沃度を高めるという副次的効果ももたらします。これにより、農作物の収量増加や土壌の回復が期待できます。
実際の事例として、英国のUNDO社は、農地に砕いた岩石を散布することで、すでに数万トンのCO2を吸収したと報告しています。インドのダージリン地方では、Alt Carbon社がEW技術を茶畑に応用し、農家の収穫量を20~30%増加させることに成功しています。同社は、この取り組みを通じて、気候変動対策と地域産業の活性化を両立させています。Alt Carbon社は、その革新的なアプローチとコスト効率の高さから、国際的な炭素除去市場で注目されており、大手企業からの購入契約も獲得しています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化を抑制するためには、2050年までに年間10ギガトンものCO2を大気から除去する必要があると警告しており、EWはその目標達成に向けた重要な手段の一つとして期待されています。EW技術が普及すれば、年間4ギガトンのCO2除去が可能となり、この目標の40%を達成できると見られています。
このように、風化促進は、地球の自然なサイクルと調和しながら、気候変動という地球規模の課題に対処し、同時に農業の持続可能性を高めるための有望な道筋を示しています。それは、私たちが惑星の健全性を育み、より豊かな未来を築くための、大地からの贈り物と言えるでしょう。