北大西洋を循環する重要な海流システムである大西洋子午面循環（AMOC）が、臨界点に近づいており、今世紀末までに地球規模の気候変動を引き起こす可能性があると、新たな研究が警告を発しています。この巨大なコンベヤーベルトは、熱帯の暖かい海水を北へ運び、世界中の気候パターンに影響を与えています。
2025年8月24日に「Journal of Geophysical Research: Oceans」に発表された最新の研究では、25の気候モデルを用いてAMOCの安定性が評価されました。新たに特定された指標である「表面浮力フラックス」は、2020年以降増加傾向にあり、この重要な海流の弱体化を示唆しています。研究では、高排出シナリオの下では、早ければ2050年にも崩壊する可能性があると予測されています。
AMOCの崩壊がもたらす影響は深刻で、ヨーロッパでは気温が大幅に低下し、嵐が増加する可能性があります。北米東海岸では海面上昇が加速し、アジアやアフリカのモンスーンパターンにも混乱が生じることが予想されます。欧州委員会のウォプケ・フークストラ氏は、これらの発見を「深刻な気候変動への警鐘」と呼び、排出削減の緊急性を強調しています。
過去の研究では、AMOCの弱体化はヨーロッパの寒冷化をもたらすとされてきましたが、最近の研究では、海洋の炭素吸収能力を低下させ、温暖化を加速させる可能性も指摘されています。2025年3月5日に発表されたマックス・プランク研究所の研究によると、AMOCの弱体化は、大気中に残留する二酸化炭素（CO₂）を増加させ、極端な気象現象の増加により、2100年までに数兆ユーロ規模の経済損失が発生する可能性があるとのことです。
科学者たちは、AMOCの崩壊はもはや低確率の事象ではなく、気候変動対策の緊急性を改めて浮き彫りにしていると警鐘を鳴らしています。特に、低排出シナリオであっても、AMOCの崩壊リスクは無視できないレベルにあると指摘されています。この状況は、温室効果ガスの排出削減に向けた国際的な協力と、より野心的な行動が不可欠であることを示唆しています。