太平洋の南部、南緯48度52分、西経123度23分に位置するポイント・ネモは、地球上で最も陸地から遠い地点として知られています。この「到達不能極」は、最も近い陸地であるデュシー島、イースター島、南極のマハー島からも約2,700キロメートル離れています。この驚異的な隔絶性は、1992年にクロアチアの技術者フルヴォイェ・ルカテラ氏によってコンピューターモデリングにより特定されました。
興味深いことに、ポイント・ネモに最も近い人間は、地球から約400キロメートル上空を周回する国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士たちです。この場所は、その極端な孤立性から、宇宙機関によって廃止された人工衛星や宇宙船の安全な落下地点としても利用されており、「宇宙船の墓場」とも呼ばれています。ロシアのミール宇宙ステーションや、将来のISSもここに誘導される予定です。
ポイント・ネモという名前は、ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里』に登場する架空のキャラクター、ネモ船長にちなんで名付けられました。ネモ船長は社会から隔絶され、潜水艦ノーチラス号で孤独な生活を送る人物として描かれています。このキャラクターへの敬意は、宇宙にも及んでおり、1982年には小惑星(1640)ネモが発見され、2018年には冥王星の衛星カロンのクレーター「ネモ・クレーター」にも命名されています。
ポイント・ネモは、地理的な特異性だけでなく、科学的な探求の対象としても注目されています。その隔絶された環境は、海洋学的な研究や、地球外生命体の可能性を探る上での手がかりとなるかもしれません。小惑星「ネモ」の発見や、カロンのクレーターへの命名は、人類の探求心が地球上の極限の地から宇宙空間へと広がっていることを示唆しています。この遠隔の地は、私たちの惑星の広大さと、未だ解き明かされていない宇宙の神秘への想像力を掻き立てます。