フランスのサン・セゼール近郊にあるラ・ロッシュ・ア・ピエロ遺跡で、西ヨーロッパ最古とされる貝殻装飾品の工房跡が発見されました。この遺跡は約42,000年前のもので、シャテルペロニアン文化に属すると考えられています。発見されたのは、穴が開けられた貝殻や顔料で、一部の貝殻には穴に摩耗痕が見られないことから、装飾品が作られていた過程であることが示唆されています。この発見は、初期の人類が高度な創造性と社会的なネットワークを持っていたことを物語っています。
シャテルペロニアン文化は、約55,000年前から42,000年前までフランスとスペイン北部で栄えた文化です。この文化の担い手がネアンデルタール人かホモ・サピエンスかについては、長年議論が続いてきました。今回の発見は、この謎に新たな光を当てる可能性があります。分析の結果、使用された貝殻は100キロメートル以上離れた大西洋岸から、顔料は40キロメートル以上離れた場所から運ばれてきたことが判明しました。これは、当時の人々が広範囲に移動していたか、あるいは交易ネットワークを持っていたことを示唆しています。
この遺跡からは、ネアンデルタール人の道具や、バイソンや馬などの狩猟された動物の骨も発見されています。これらの発見は、シャテルペロニアン文化が西ヨーロッパにおける初期の上部旧石器時代の産業であり、貝殻ビーズと関連している最初の証拠となります。このことから、シャテルペロニアンの人々が、約42,000年前にこの地域に到達した初期のホモ・サピエンスの波から影響を受けていた、あるいはその一員であった可能性が示唆されています。
サン・セゼール遺跡は、1976年の発掘開始以来、先史時代の居住形態やネアンデルタール人とホモ・サピエンスの交流を理解する上で重要な場所となっています。この発見は、人類の進化における創造性、技術、そして社会的なつながりの深さを示す貴重な手がかりと言えるでしょう。さらに、約4万年前にはヨーロッパ各地でホモ・サピエンスがマンモスの骨や象牙を使った装飾品を作成していたことが知られており、この発見は当時の文化的な活発さを示す一例とも考えられます。また、クロアチア近郊で発見された13万年前の鷲の爪で作られた装飾品は、ネアンデルタール人の時代にも装飾品が存在したことを示唆しており、人類の装飾品製作の歴史の古さを物語っています。