北極圏で繁殖するガンやハクチョウなどの渡り鳥が、気候変動による北極の環境変化に対し、渡りの時期や速度を調整することで適応能力を示していることが、アムステルダム大学とオランダ生態学研究所の研究者らによる最新の研究で明らかになりました。
この研究は500回以上の春の渡りを分析したもので、『Nature Climate Change』誌に掲載されました。渡り鳥は、気候変動によって早まる北極の春に対応するため、渡りの途中の休息期間を短縮し、飛行速度を上げることで、繁殖に不可欠な食料が最も豊富になる時期に繁殖地へ早く到着する戦略をとっています。特にハクガンやクロガンは、出発前の栄養補給が重要であることが示されました。
しかし、研究者たちは、この適応能力にも限界があり、現在の気候トレンドが続けば、この柔軟性は今後18年から28年しか持続しない可能性があると警告しています。北極の温暖化の急速なペースは、渡り鳥が移動戦略の調整だけで適応できる能力を超えてしまう可能性があり、保全活動の緊急性が浮き彫りになっています。
研究では、クロガン、ハクガン、オオハクガン、ハイイロガン、コハクチョウの5種の大型水鳥の春の渡りが追跡されました。オオハクガンやコハクチョウは、北極の雪解けが早い年に休息時間を短縮して早く到着するなど、変化する春の状況に柔軟に対応する能力が高いことが示されました。一方で、ハイイロガンやクロガンは、渡りの途中で立ち寄る場所が少ないため、ルート上での調整能力が低いことが示唆されています。
この適応能力には代償も伴う可能性があります。急速な栄養補給には質の高い食料と邪魔の少ない環境が必要ですが、それらが常に利用できるとは限りません。また、移動を早めた鳥は、より悪い身体状態で到着し、繁殖の成功に影響を与える可能性も懸念されています。この適応能力の限界は、渡り鳥の長期的な生存にとって重要な課題となっています。