2025年8月20日、NVIDIA（NVDA）の株価は169.24ドルで取引を終え、3.64%下落しました。この動きは、米テクノロジー株全般の売り圧力と連動しており、ナスダック総合指数も前日19日に1.6%下落しました。市場の引き締めは、生成AIへの投資収益性に対する懐疑論の高まりに起因しており、最近のマサチューセッツ工科大学（MIT）の研究では、多くの企業が生成AIからの具体的なリターンをまだ得られていないことが示されています。
MITの「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」と題された調査によると、企業の生成AIパイロットプロジェクトの95%が初期段階で停滞し、本格的な導入に至っていないことが明らかになりました。これは、AIモデル自体の品質というよりは、企業がAIを既存のワークフローに統合する際の「学習ギャップ」や組織的な課題に起因すると分析されています。多くの企業がAI予算の半分以上をセールス・マーケティングに投じている一方で、最も高いリターンはバックオフィス業務の自動化や効率化で報告されているという、戦略的なミスマッチも指摘されています。
このような市場のセンチメントの中、NVIDIAは中国市場での事業拡大を積極的に進めています。同社は2025年7月にH20 AIチップの輸出ライセンスを取得し、CEOのジェンスン・フアン氏は売上増を目指してより高度なチップを中国に出荷する計画です。さらに、同社は既存のH20モデルを上回る性能を持つBlackwellアーキテクチャを基盤とした新しいAIチップ、「B30A」を開発中であると報じられています。このB30Aは、より高性能なB300アクセラレータの約半分のコンピューティング能力を持つシングルダイ設計になると見られています。また、AI推論向けにはRTX6000Dといった製品も準備されている模様です。しかし、米中間の技術貿易摩擦や輸出規制は、NVIDIAの中国戦略に常に影響を与えており、同社は規制当局の承認を得ながら事業を展開するという複雑な舵取りを迫られています。
NVIDIAの株価は、58倍という高い株価収益率（PER）も市場の懸念材料となっています。AIへの投資が期待通りの成果を上げていないという見方が広がる中で、このバリュエーションは一部の投資家にとって過大評価と映る可能性があります。専門家は、AIブームが過熱している可能性を指摘しつつも、NVIDIAの強力なエコシステム（CUDAプラットフォームなど）や、AIインフラにおけるリーダーシップは依然として強固であると分析しています。しかし、市場はAIの「寵児」と、その基盤を支えるインフラ企業とを区別し始めており、NVIDIAのような企業も、より厳格なファンダメンタルズと将来の成長見通しの両面で評価される局面を迎えています。
テクノロジーセクター全体がAIへの懐疑論と政策の不確実性に直面する中、NVIDIAの株価動向は、AI市場の成熟度と、地政学的な要因がテクノロジー企業に与える影響を測る重要な指標となっています。同社は、中国市場への対応や、AI投資の収益性に関する市場の疑問にどう応えていくかが、今後の株価を左右する鍵となるでしょう。