米国商務省は2025年9月1日、サムスン電子とSKハイニックスに対し、中国への半導体製造装置の輸出に関する既存の許可を取り消したと発表しました。この政策変更は、両社の中国における事業運営に直接的な影響を与え、市場に波紋を広げています。発表を受け、SKハイニックスの株価は4.4%、サムスン電子は2.3%下落しました。
これまで、これらの韓国企業は中国国内の製造拠点で必要となる半導体製造装置を、追加のライセンスなしで輸入できる特例措置(VEUプログラム)を受けていました。しかし、今回の規制強化により、サムスンとSKハイニックスは、中国への装置出荷ごとに米国当局との個別の調整と許可が必要となります。この措置は、米国が国家安全保障上の理由から中国の先端半導体技術へのアクセスを制限しようとする広範な戦略の一環です。
SKハイニックスは中国・無錫にDRAMメモリ工場を、サムスン電子は西安にNANDフラッシュメモリの主要生産拠点を有しています。今回の米国政府の決定は、これらの拠点の運営に影響を与えるだけでなく、日本の半導体製造装置メーカーにも波及し、関連企業の株価下落を招きました。中国側は、この動きを批判し、自国企業の利益保護を誓っています。
アナリストの間では、米国の新たな規制が中国製チップと韓国製チップの技術的格差を拡大させる可能性が指摘されています。これにより、マイクロンなどの競合他社が有利になることも考えられます。米国は2022年10月以降、中国の先端技術へのアクセスを制限する一連の輸出管理措置を導入しており、今回の措置はその延長線上にあると言えます。特に、先端半導体の製造装置や関連技術に対する規制は、グローバルなサプライチェーンの再編を促す要因となっています。
今回の規制は、サムスンとSKハイニックスが中国で既存の工場を維持するためのライセンス申請は引き続き承認する方針ですが、生産能力の拡大や技術のアップグレードを目的としたライセンスは認めないとしています。これにより、韓国企業は中国での生産ラインをレガシーチップに限定せざるを得なくなる可能性があります。この状況は、韓国政府が推進する「半導体ナショナリズム」とも連動し、国内生産への回帰や、東南アジアなど他地域への生産拠点分散といった戦略的再編を加速させる可能性があります。投資家にとっては、こうした地政学的な変動の中で、サプライチェーンの強靭性や事業の多角化を進める企業の動向が注目されます。この動きは、単なる貿易摩擦を超え、世界の半導体産業の構造そのものに、新たな時代の幕開けを告げているかのようです。