ローマの中心に位置する古代の円形闘技場コロッセオで、これまで一般の目に触れることのなかった歴史的な空間が公開されることになりました。これは「コンモドゥスの通路」と呼ばれる秘密の回廊であり、紀元1世紀から2世紀にかけて建設された、長さ約55メートル(180フィート)に及ぶ建築要素です。この通路の主な目的は、皇帝や高官たちが、数万人に上る群衆に気づかれることなく、彼らの特権的な座席へと密かに移動するための動線を提供することでした。
この回廊は、紀元180年から192年まで統治した皇帝コンモドゥスにちなんで名付けられています。この歴史的な通路の一般公開は、2024年10月から2025年9月までの約1年間にわたる綿密な修復作業を経て実現しました。この開通は、当時の権力者の視点から歴史的な出来事を垣間見る、非常に貴重な機会を提供します。コロッセオ考古学公園の専門家チームは、構造の強化、装飾面の復元、そして訪問者用の新しい床材の敷設といった大規模な作業を実施しました。修復プロジェクトを指揮した建築家バルバラ・ナッツァーロ氏は、来場者が「支配者としてアリーナに入場することがどのような体験であったか」を肌で実感できるようになると述べています。
通路の入り口付近からは、アリーナでの生活を描いた壁画の痕跡が発見されました。これには、イノシシ狩りの場面、動物との決闘、そして曲芸のパフォーマンスなどが含まれています。回廊の壁は当初、豪華な大理石で覆われていましたが、後に神話的な主題のフレスコ画が描かれた漆喰で上塗りされました。残念ながら、高い湿度のため、現存する装飾の断片は損傷を受けています。しかし、現代のデジタル技術を用いた再構築により、訪問者はその本来の姿を鮮明に見ることができるようになっています。
「コンモドゥスの通路」は、2025年10月27日より、コロッセオの「フル・エクスペリエンス」チケットプログラムの一部として組み込まれる予定です。この通路はS字型をしており、主要なアリーナの領域を超えて伸びています。その最終的な終着点がどこにあったのかは、いまだに考古学的な研究の対象となっており、さらなる解明が期待されています。
歴史的な記録によれば、この秘密の通路は、コンモドゥス自身に対する暗殺未遂事件とも関連付けられており、この場所に個人的なドラマと緊張の影を落としています。考古学者たちは、この区画の公開を「極めて重要な意味を持つ」と評価しています。なぜなら、これは古代ローマにおける帝国のロジスティクス(兵站)と、権力の象徴主義に対する理解を深める上で、欠かせない発見だからです。