カトリック言語学者であり、エルサレムのポリス学院学部長を務めるクリストフ・リコ氏は、西暦406年頃に聖ヒエロニムスによって完成された聖書のラテン語訳「ウルガタ」が、1600年近くにわたり驚くほど正確性を保っていることを高く評価しています。この翻訳はキリスト教神学と聖書研究に計り知れない影響を与えてきました。
リコ氏は、「古代から現代に至るまで、これほど優れた翻訳は他に知りません」と述べ、その精緻さと教会にとっての価値は、長い年月を経ても全く色褪せていないと強調しました。ウルガタは中世ヨーロッパにおける聖書研究の基盤となり、多くの神学者や聖人がこの翻訳を参照しました。その影響は、後の聖書翻訳にも及び、ルターや欽定訳聖書にもその痕跡が見られます。
2011年に設立されたポリス学院は、古代言語と人文科学の研究に特化しており、「ポリス・メソッド」を用いて、ラテン語や古代ギリシャ語をあたかも生きている言語であるかのように教えています。このメソッドは、完全没入型学習と、言語習得の自然な順序を尊重する動的な言語発達を原則としています。リコ氏は、この革新的な言語教育アプローチを通じて、古代テキストへの深い理解を促進しています。
リコ氏の称賛は、現代の聖書研究においてもウルガタが依然として重要な位置を占めていることを裏付けています。聖ヒエロニムスは、当時の最良のヘブライ語およびギリシャ語写本に基づいて翻訳を進め、その結果、信仰と道徳に関する限り、誤りがないと教会によって宣言されるほどの正確性を実現しました。ウルガタは、カトリック教会の公式ラテン語訳として、1546年のトリエント公会議でその地位を確立し、その後も数度の改訂を経て、現代に至るまでその影響力を保っています。
特に、1592年のクレメンス8世による改訂版(クレメンタイン・ウルガタ)は、1979年に新ウルガタが公布されるまで公式訳として用いられました。現代においても、伝統的ラテン語ミサで用いられるほか、有名な英語訳聖書であるドウエ・ライムズ訳の基礎ともなっています。リコ氏自身も、ポリス学院でラテン語やギリシャ語の学習教材を制作しており、ウルガタを原語で読みたいと願う人々を支援しています。彼は、ウルガタには新約聖書において間違いを見つけることができなかったと述べており、その驚くべき正確性を称賛しています。この翻訳は、単なる言語的な偉業にとどまらず、西洋文化の形成にも寄与し、神学的な言語を形作ってきました。ウルガタは、聖ヒエロニムスの学術的・言語的才能の証であり、1600年近く経った今もなお、その価値は揺るぎないものとして認識されています。