韓国政府は、2025年初頭に公教育システムへAI搭載デジタル教科書を導入する計画を推進していましたが、保護者や教育関係者からの強い反発を受け、2025年8月までにこの義務的な政策を撤回しました。この政策転換により、AIリソースは「教材」として再分類され、公式な教科書としての地位とそれに伴う資金提供が削除されました。
当初、韓国教育部は2025年から数学、英語、情報などの科目にAIデジタル教科書を導入し、個別最適化された学習体験を提供することを目指していました。この計画には、2024年だけで約5333億ウォン(約400億円)という巨額の投資が行われ、AI教科書開発への総投資額は推定8000億ウォン(約600億円)に達する可能性がありました。しかし、保護者からはスクリーンタイムの増加やプライバシーへの懸念が表明され、56,000人以上の保護者が請願書に署名しました。また、多くの教育者はAI導入を歓迎する一方で、調査された教師の98.5%がAI教科書の使用に関する研修が不十分であると回答しており、準備不足が指摘されていました。
政策撤回後、初・中等教育法改正案が可決され、AIデジタル教科書「AIDT」は「教科書」ではなく「教育資料」に格下げされました。導入からわずか2カ月後の学校現場での活用率は1割にも満たない状況が続いており、教育関係者からは不満の声が上がっています。この政策転換は、AIが教育業務を自動化し、雇用喪失を悪化させる可能性への懸念を反映しており、EdTech企業への危機感も高まっています。推定市場規模が年間2兆5千億ウォンに達する可能性があったこの事業は、検定問題なども抱え、開発会社が法的対応を検討する事態にも発展しました。
韓国の経験は、関係者の懸念に対処せずに急速なAI導入を進めるリスクを浮き彫りにし、同様の取り組みを検討している国々にとって重要な教訓となっています。慎重な計画立案、関係者との十分な関与、そしてテクノロジーが人間の役割を補完する形での導入が、今後のAI教育のあり方を考える上で不可欠であることが示唆されています。