米国務省は2025年の年次人権報告書を発表し、欧州全域、特にルーマニアにおける人権状況に対する深刻な懸念を明らかにしました。報告書は、多くの欧州諸国で人権状況が悪化していると指摘しています。
フランスでは、表現の自由に対する厳しい制限と、反ユダヤ主義行為の増加が報告されています。2024年には、宗教的憎悪犯罪の62%を占める1,570件の反ユダヤ主義行為が記録されました。英国では、イーロン・マスク氏が率いるソーシャルメディアプラットフォームX（旧Twitter）が、新たなオンライン安全法案について、表現の自由を著しく侵害する可能性があり、検閲を強化する決定だと批判しています。これに対し英国政府は、同法案が表現の自由を保護するものであり、政治的議論を検閲するものではないと反論しています。
欧州の人権状況に対する米国の視点としては、2025年2月14日に開催されたミュンヘン安全保障会議でのジェイディー・バンス米国副大統領の発言が注目されます。バンス氏は、欧州にとって最大の脅威はロシアや中国ではなく、「内側からの脅威」、すなわち欧州自身の価値観からの後退であると述べ、特に言論の自由の後退を懸念しました。彼はルーマニアの選挙無効化をその例として挙げ、欧州の民主主義の基盤に対する警鐘を鳴らしました。しかし、ドイツのピストリウス国防相は、バンス氏の見解に異議を唱えています。
ルーマニアに目を向けると、報告書は政府による腐敗の蔓延、検閲、そして残虐かつ非人道的、または品位を傷つけるような扱い、情報へのアクセス拒否、司法の独立性と公平性を損なう司法監督の非効率性や説明責任の欠如といった、長年にわたる深刻な問題を指摘しています。2025年3月17日に発表された欧州市民自由連合の報告書では、ルーマニアは「法の支配をあらゆる側面で意図的に損なっている国」の一つとして挙げられ、司法制度への政治的干渉、汚職対策法の執行の弱さ、ジャーナリストへの嫌がらせなどが問題視されています。また、米国務省の2025年4月の報告書では、ルーマニアが人権問題への対応努力を増やしているものの、人権侵害は依然として続いていると指摘されています。さらに、欧州評議会の汚職防止グループ（GRECO）は2025年8月の更新で、ルーマニアの汚職対策改革の進捗が遅れており、26項目の勧告のうち実施されたのはわずか2項目であると明らかにしました。メディアの自由や公的メディアの独立性強化への懸念も、引き続き指摘されています。
これらの報告は、欧州全体で自由、民主主義、そして法の支配といった基本的な価値観が直面している複雑な課題を浮き彫りにしています。個々の国の状況は異なりますが、これらの問題に対する深い理解と、これらの原則を守り育むための継続的な取り組みが、社会全体の健全な発展と調和のために不可欠であることを示唆しています。