9月4日、ドナルド・トランプ大統領はホワイトハウスにテクノロジー業界のトップリーダーを招き、夕食会を開催しました。当初ローズガーデンでの開催が予定されていましたが、悪天候のためステートダイニングルームに変更されました。この会合では、人工知能(AI)の急速な進歩と、米国におけるAI関連投資の促進、そして次世代を担う若者のためのAI教育のあり方について、活発な議論が交わされました。
この会合には、メタのマーク・ザッカーバーグCEO、アップルのティム・クックCEO、グーグルのサンダー・ピチャイCEO、マイクロソフトのサティア・ナデラCEO、オープンAIのサム・アルトマンCEOをはじめ、ビル・ゲイツ氏(マイクロソフト共同創業者)、セルゲイ・ブリン氏(グーグル共同創業者)など、テクノロジー界を牽引する顔ぶれが参加しました。一方、イーロン・マスク氏は、今年初めの公的な意見の相違が影響し、今回の会合には姿を見せませんでした。
夕食会では、各企業の米国国内への具体的な投資計画が共有されました。マーク・ザッカーバーグ氏とティム・クック氏はそれぞれ6,000億ドル、サンダー・ピチャイ氏は2,500億ドル、サティア・ナデラ氏は年間最大8,000億ドルという巨額の投資を約束しました。トランプ大統領はこれらの国内投資へのコミットメントを歓迎し、米国の技術革新と経済成長への貢献を期待する姿勢を示しました。米国はAI分野への民間投資額で世界をリードしており、2024年には1,091億ドルに達し、中国の約12倍に相当します。
同日午前には、ファーストレディのメラニア・トランプ夫人が主導するホワイトハウスの「AI教育タスクフォース」の会合も開かれました。このタスクフォースは、4月23日に発令された大統領令14277号に基づき、米国の学生がAI時代に不可欠なスキルを習得できるよう、教育システムへのAI導入を推進するものです。メラニア・トランプ夫人は、「リーダーとして、また親として、私たちはAIの成長を責任を持って管理しなければなりません。この初期段階において、AIを私たち自身の子供たちのように扱うことが私たちの義務です。それは力を与えるものですが、注意深い指導が必要です」と述べ、AIの倫理的かつ慎重な発展を呼びかけました。
これに応える形で、マイクロソフトは教育分野に40億ドルを投じ、AI教育プログラムの拡充を発表しました。オープンAIは2030年までに1,000万人の米国人に対しAI関連の認定を行う計画を、グーグルは今後3年間でAIを活用した教育に10億ドルを投資する意向を示しています。これらの取り組みは、米国のAI分野における投資額が世界的に見ても突出しており、特に生成AIへの投資が活発化している現状を反映しています。
政策面では、トランプ大統領は米国に生産拠点を設けない半導体企業からの輸入に対し、関税を課す方針を明らかにしました。これは国内製造業の振興とサプライチェーンの強靭化を目的としており、TSMC、サムスン、SKハイニックスといった米国での工場建設を発表している企業は、この関税措置の対象外となる見込みです。この半導体関税戦略は、米国のGDPを約0.9%縮小させる可能性や、物価上昇、失業率への影響も指摘されており、その経済的影響は注視されています。また、この関税措置を巡っては、その法的根拠を問う訴訟も提起されており、最高裁判所の判断が待たれる状況です。
一方、共和党内からはAIに対する規制の必要性を訴える声も上がっています。ジョシュ・ホーリー上院議員は、AIが労働者の権利やプライバシー、さらには子供たちの安全に与える影響について懸念を示しており、AI技術の発展にはより厳格な政府の監視と規制が必要だと主張しています。彼は、AIが労働者の立場を弱め、一部のエリート層に富を集中させるのではなく、すべての人々の生活を向上させるために活用されるべきだと訴えています。
今回のホワイトハウスでの会合は、AI技術の未来を形作る上で、政府と産業界が協力して取り組むべき課題を明確にしました。AIへの巨額投資、教育への注力、そして半導体政策といった多岐にわたる議論は、米国がAI分野でのリーダーシップを維持し、経済的繁栄と国家安全保障を確保するための重要な一歩と言えるでしょう。