2025年6月にオランダ・ハーグで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は、同盟の結束と財政的責任のあり方を問う重要な場となった。この会議の焦点は、米国ドナルド・トランプ大統領が強く推進した、加盟国の防衛支出を国内総生産(GDP)比で現行の2%から5%へ大幅に引き上げるという新たな目標設定であった。この5%目標は2035年までの達成が合意されたが、スペインの対応が特に注目を集めた。
トランプ大統領は、フィンランドのアレクサンダー・ストゥブ大統領との会談の場などで、スペインを「遅れて参加した国」と名指しし、5%目標へのコミットメントを拒否する姿勢を「ひどい」と断じた。大統領は、スペインが全額を支払わない唯一の加盟国であると指摘し、貿易交渉において「2倍の支払いをさせると主張」する姿勢を見せた。これは、同盟内における構造的な責任分担の課題が、表面的な対立として顕在化した瞬間であった。
一方、スペインのペドロ・サンチェス首相は、この要求に対し、国内の状況を鑑みた独自の立場を表明した。サンチェス首相は、スペインの現在の防衛予算は「十分、現実的、かつ福祉国家のあり方と両立する」水準であると主張し、5%目標の達成は国内に多大な影響を及ぼすと反論した。首相は、必要なコストはGDP比2.1%であり、支出の効率化とEU内での連携が重要であると訴えた。また、拙速な軍拡はEUの戦略的自立を妨げ、福祉国家の維持が困難になるという懸念も表明された。
この緊張関係の中、首脳宣言の文言は、当初の「すべての加盟国」から「加盟国は5%目標にコミット」という曖昧な表現に修正され、スペインを含む全加盟国が署名に至った。これにより、NATOは一時的な結束を示すことができた。しかし、スペインの2024年の国防費はGDP比1.24%と、依然として同盟国の中で最も低い水準にあったことが確認されている。
この出来事は、国際的な枠組みにおける義務と、国家が国民に対して負う責任との間で生じる、避けられない調整のプロセスを映し出している。スペインは2025年までにGDP比2%達成を目指す計画を発表していたが、これは以前の約束よりも前進する動きであり、外部からの圧力下での対応が、国内の安全保障への意識を喚起する触媒となった側面も見逃せない。真の強さは、自らの基盤を確固たるものとしながら、調和の取れた貢献の道を探ることにあるのかもしれない。