世界最高峰エベレストは、多くの登山家にとって究極の目標であると同時に、長年にわたり登山者によって持ち込まれた大量の廃棄物が深刻な環境問題となっています。「世界最高のごみ捨て場」とも呼ばれるこの現状に対し、ネパール当局と地元企業が革新的な解決策として、大型ドローンを活用した廃棄物処理と物資輸送の実証実験を進めています。これは、単にゴミを減らすだけでなく、険しい山岳地帯での登山者の安全性を高める新たな一歩です。
標高8,848.86メートルのエベレストは、登山シーズン中に発生する膨大な量のゴミが深刻な環境汚染を引き起こしています。空き缶、プラスチック、使用済み酸素ボンベなどが氷河に蓄積し、山の景観を損なうだけでなく、生態系にも影響を与えています。かつては、シェルパやボランティアによる人力での回収が主な手段でしたが、これは非常に危険で時間のかかる作業でした。一人の登山者が平均約8キログラムのゴミを出すとも言われ、長年の蓄積により、山頂付近からベースキャンプに至るまで、多くの場所で問題となっています。
この状況を打開するため、ネパールのアエロリフト・テクノロジー社は、DJI社の大型輸送ドローン「FlyCart 30」を活用した実証実験を2024年4月に開始しました。このドローンは最大30キログラムのペイロードを運ぶ能力を持ち、特に危険なクンブ氷河などを経由して、キャンプ1（標高約6,065メートル）からベースキャンプまで効率的に廃棄物を輸送します。試験運用では、わずか10分で人間が6時間かかる作業量に相当するゴミを運ぶことができ、その効率性と安全性が証明されました。これまでに、エベレストから約300キログラム、近隣のアマダブラム山から約641キログラムのゴミがドローンによって回収されています。
この技術革新は、廃棄物処理の効率化に留まりません。シェルパたちの安全確保にも大きく貢献しています。これまで、酸素ボンベやロープなどの必須物資を危険なクンブ氷河地帯へ運ぶために、シェルパたちは何度も命がけの移動を強いられてきました。ドローンがこれらの物資輸送や、より安全なルートの地図作成を担うことで、シェルパたちの負担とリスクを大幅に軽減することが期待されています。これは、山岳環境への敬意と、そこで働く人々への配慮が、テクノロジーによって具現化された例と言えるでしょう。
この取り組みは、エベレストだけでなく、他のヒマラヤ山脈の高峰にも応用可能な、持続可能な登山文化への転換点となる可能性を秘めています。技術の進歩は、自然の美しさを守りながら、人間の探求心を支える新たな道を開いています。これは、困難な課題に直面した際に、知恵と協力によってより良い未来を創造できるという、希望に満ちた証です。