ロシアの北極LNG 2プロジェクトからアジア市場に向けた液化天然ガス(LNG)タンカーの航海が、米国の制裁執行能力を試す形で再開されました。LNGタンカー「Iris」と「Voskhod」は、2025年8月15日に北極海航路を経由して北アジアへ向けて出航しました。これらの船舶は、国際的な制裁を回避するために船籍変更や船名変更を行ったとされるロシアの「シャドーフリート」の一部です。
これらのタンカーは数週間にわたり係留されていましたが、今回の航海再開は、ロシアのエネルギー輸出に対する西側諸国の制裁の効果に疑問を投げかける動きです。米国は、ロシアのウクライナ侵攻への対応として、ロシアのエネルギー部門に制裁を課しており、特に北極LNG 2プロジェクトに対しては、砕氷LNGタンカーの調達を妨げることでプロジェクトの遅延を狙ってきました。実際、2024年4月には米国がズヴェズダ造船所を制裁対象に含めたことで、プロジェクトに必要な特殊なタンカーの供給に影響が出ています。しかし、ロシア側は制裁回避策を講じており、タンカーの船籍変更や名称変更はその一環と見られています。例えば、2025年4月には4隻の砕氷LNG船がロシア連邦籍に変更され、名称も変更されました。これらの動きは、ロシアが制裁を回避し、プロジェクトを稼働させ続ける決意を示しています。
国際的な制裁の網をかいくぐろうとするロシアの試みは、グローバルなエネルギー市場の複雑さと地政学的な緊張を浮き彫りにしています。欧州連合(EU)は、ロシア産LNGの域内積み替えを禁止する制裁を強化しており、2025年3月27日以降、この禁止措置の対象となるタンカーが増加する可能性があります。また、米国は、Arctic LNG 2プロジェクトの運営会社であるNovatekや関連企業に対しても制裁を課しており、プロジェクトの推進を困難にさせています。
これらの状況は、ロシアが制裁下でもエネルギー輸出を継続しようとする粘り強さと、制裁を執行しようとする西側諸国の決意との間の継続的な駆け引きを示しています。制裁緩和がロシアに譲歩を促すインセンティブとなるかという問いに対しては、ロシアが地政学的な目標において、そのようなインセンティブに大きく左右されない可能性が示唆されています。北極LNG 2プロジェクトからのLNG出荷再開は、制裁の有効性と、それを回避しようとするロシアの戦略の双方を試すものとなります。