2025年9月、フランスはマリとのテロ対策協力を停止し、パリの在仏マリ大使館員2名をペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)として国外追放処分とすることを発表しました。この措置は、マリ当局がフランス人男性ヤン・ヴェジリエ氏をクーデター計画の容疑で逮捕したことへの直接的な対応です。
マリ側は、ヴェジリエ氏がフランス情報機関の代理として同国を不安定化させようとしたと主張していますが、フランスはこれを「根拠のないもの」として強く否定し、同氏がバマコ駐在のフランス大使館員であったと強調しています。この外交的な応酬は、2020年の軍事クーデター以降、両国関係が急速に悪化している現状を浮き彫りにしています。
マリの軍事政権は、2020年と2021年のクーデターを経て、アッシミ・ゴイタ大統領の指導の下、フランスをはじめとする西側諸国との関係を冷却させ、ロシアからの安全保障支援を求める姿勢を強めてきました。2025年6月には、ゴイタ大統領の任期が5年間延長され、さらに必要に応じて更新されることが決定されました。これは、2024年3月までに文民統治へ移行するという当初の公約に反するものであり、軍事政権による権力掌握の動きを一層強固なものとしています。
フランス軍は2022年8月にマリから完全撤退しました。マリは、フランス軍の撤退を求め、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」など、新たな安全保障パートナーを模索しています。今回のテロ対策協力停止と外交官追放は、両国間の信頼関係のさらなる低下を示唆しています。マリ当局によるフランス人外交官の逮捕とクーデターへの関与の疑いは、両国関係の悪化に拍車をかけており、今後の外交的な展開が注視されます。フランスは、ヴェジリエ氏の即時解放を求めており、マリの対応次第ではさらなる措置を講じる可能性も示唆しています。
この事態は、サヘル地域におけるテロ対策や地域安全保障の枠組みにも影響を与える可能性があります。マリの軍事政権は、フランス軍の撤退を要求し、代わりにロシアからの軍事支援を求めるようになりました。これは、サヘル地域における地政学的なパワーバランスの変化を象徴する動きであり、フランスの影響力低下とロシアの影響力拡大を示唆しています。マリ、ブルキナファソ、ニジェールといったサヘル地域の国々は、近年、軍事クーデターを経て、フランスとの安全保障協定を破棄し、ロシアとの連携を深めています。これらの国々は、西側諸国によるテロ対策の限界を感じ、自国の主権を主張する姿勢を強めています。マリは、フランス語を公用語から外すなど、旧宗主国との関係を断ち切る動きを見せています。マリ当局は、フランスが同国の不安定化を図っていると非難していますが、フランスはこれを否定し、外交官の即時解放を求めています。
マリは、イスラム過激派組織や犯罪組織との戦いを続けており、フランスとの協力停止は、テロ対策における空白を生む可能性があります。また、マリの軍事政権がロシアとの関係を強化する動きは、地域における新たな地政学的な緊張を生む可能性も指摘されています。マリの政治的安定と地域安全保障の行方は、今後のフランスとマリの関係、そしてサヘル地域全体の動向に大きく左右されることになります。