2025年9月5日現在、国際宇宙ステーション(ISS)は科学探査の最前線として、特に宇宙での健康維持と宇宙物理学の分野で重要な役割を果たしています。2025年4月19日に開始された第73次長期滞在(Expedition 73)は、人間の宇宙環境への適応メカニズムと宇宙の根源的な法則の解明に大きく貢献しています。
宇宙飛行士は微小重力下での筋肉量と骨密度の低下という課題に直面しており、これを克服するために毎日約2時間の運動を行っています。これらの運動は、心血管系および呼吸器系の健康を維持し、筋骨格系の衰えを防ぐために不可欠です。NASAの飛行エンジニアであるマイク・フィンケ氏は、宇宙飛行士の運動中の生理学的反応を記録する特殊な機器を使用するCardiobreath研究に参加しています。この研究は、カナダ宇宙庁(CSA)からの資金提供を受けており、Bio-Monitor(Astroskin)と呼ばれるウェアラブル技術を用いて、宇宙飛行士の心血管系と呼吸器系が血圧制御システムとどのように相互作用するかを追跡します。この研究は、長期宇宙ミッションのための将来的なフィットネスプログラムの指針となるだけでなく、地球上でのリハビリテーションへの応用も期待されています。
骨量の減少は、宇宙飛行士の健康にとって深刻な問題であり、地球上での骨粗しょう症などの骨疾患の治療法開発にもつながる研究が進められています。ジョニー・キム飛行士とゼナ・カードマン飛行士は、微小重力が骨幹細胞に与える影響を調査しており、これは地球上の骨疾患治療への応用が期待されています。間葉系幹細胞(MSC)の活動やサイトカイン分泌の変化を調べるMABL-Aのような実験は、宇宙飛行における骨損失の基本的な分子メカニズムの理解を深めることを目指しています。
フィンケ飛行士は、宇宙での医薬品製造や3Dプリンティング技術に関する研究にも従事しています。Colloidal Solids研究ハードウェアを活用したこの取り組みは、宇宙および地球上の人間の健康増進に寄与することを目指しています。特に注目すべきは、Auxilium Biotechnologies(オキシリウム・バイオテクノロジーズ)がISSでAMP-1プラットフォームを使用し、神経損傷修復用のインプラント可能な医療機器を3Dバイオプリンティングで製造したことです。この先進的な再生医療の可能性を示す成果は、地球上の恩恵をもたらす宇宙ベース製造の経済的実現可能性も浮き彫りにしています。また、日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)の飛行エンジニアであるキムヤ・ユイ氏は、実験ハードウェアの保守や、将来の深宇宙ミッション向けに設計された先進的な運動機器の点検に積極的に取り組んでいます。
さらに、オレグ・プラトノフ飛行士は、微小重力が心拍数と血圧に与える影響を測定する実験に参加し、日々の活動や睡眠中の生理学的変化に関する貴重なデータを提供しています。ISSは、地球の重力下では実現不可能な宇宙物理学実験のためのユニークな実験室としても機能しており、これらの研究は商業的および産業的なイノベーションを促進する可能性を秘めています。
第73次長期滞在で行われているこれらの多岐にわたる研究は、宇宙旅行の課題を克服するだけでなく、地球上の生活の質を向上させるための新たな道を開いています。ISSは、人類の知識と能力を拡張するための貴重なプラットフォームであり、これらの探求は、より深い理解と成長の機会をもたらし続けています。