Anthropicは、チームおよびエンタープライズプランのユーザー向けに、会話間で情報を記憶・参照できる待望のメモリ機能をClaude AIモデルに導入しました。この機能は、ユーザー固有の情報を記憶することで、パーソナライズと継続性を大幅に向上させます。現在、この機能はチームおよびエンタープライズプランのユーザーに提供されていますが、将来的には無料ユーザーへの展開も予定されています。また、すべてのユーザーが利用できるインコグニトモードも導入され、会話履歴に保存されないプライベートなチャットが可能になります。
この新機能により、Claudeはプロジェクトの詳細、個人の好み、コミュニケーションスタイルといったユーザー固有の情報を記憶し、複数のやり取りにわたって活用できるようになります。これにより、ユーザーは同じ情報を繰り返し説明する必要がなくなり、よりシームレスで文脈を理解した対話が実現します。Anthropicは、ユーザーがメモリデータを管理できるような制御を提供しており、表示、編集、無効化のオプションが用意されています。また、会話内容を保存しない「インコグニトモード」も利用可能です。
今回のアップデートは、AIの進化における重要な一歩であり、特にビジネス環境での活用が期待されています。例えば、営業チームは複数の商談にわたって顧客の文脈を維持し、製品チームはスプリント間で仕様を把握し、経営陣は継続的にコンテキストを再構築することなくイニシアチブを追跡できるようになります。さらに、Claudeはプロジェクトごとに個別のメモリを作成するため、例えば製品ローンチの計画と顧客対応の文脈が混同されることを防ぎ、機密性の高い議論を安全に保つことができます。
このメモリ機能の導入と並行して、AnthropicはClaude Sonnet 4のコンテキストウィンドウを100万トークンに拡張しました。これは、約75万語に相当し、以前の20万トークンから5倍の増加となります。この拡張により、Claudeは一度に大量のテキストやコードを処理できるようになり、例えば75,000行以上のコードベース全体や、数十件の研究論文を単一のプロンプトで分析することが可能になります。この能力は、大規模なコード分析、膨大な文書の統合、および文脈を理解したエージェントの構築といった、データ集約型のアプリケーション開発を可能にします。
競合他社と比較すると、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiも同様のメモリ機能を既に提供しており、今回のAnthropicのアップデートは、これらのサービスとの競争力を高めるものです。特に、大規模なコンテキストウィンドウの提供は、AIモデルの能力を差別化する重要な要素となっています。GoogleはGemini 2.5 Proで200万トークン、MetaはLlama 4 Scoutで1000万トークンを提供しており、AI業界におけるコンテキストウィンドウの拡大競争は激化しています。
Anthropicは、ユーザーが自身のデータに対して完全な制御権を持つことを重視しており、メモリ機能のオプション性や、インコグニトモードの提供はその表れと言えます。これらの機能は、AIとの対話がよりパーソナルで、かつ安全に行われるための基盤を築くものです。今後、このメモリ機能がより広範なユーザー層に展開されることで、AIアシスタントの利便性と活用範囲はさらに拡大していくことでしょう。