原子は物質を構成する基本的な要素であり、その構造の大部分は空隙で占められています。しかし、私たちが壁のような固体物質を通り抜けられないのは、主に電子雲間の電磁気的な反発力と、量子力学におけるパウリの排他原理という物理学の根本原理によるものです。
原子は、中心にある密な原子核と、その周りを回る電子の雲で構成されています。二つの原子が近づくと、電子が存在する確率の高い領域である電子雲同士が、同じ負の電荷を持つために静電的な力で反発し合います。これは、二つの磁石の同じ極同士を近づけた際に反発する現象に似ています。
この通り抜けられない性質をさらに強固にしているのがパウリの排他原理です。この量子力学的な原理は、電子のようなフェルミオンは、同じ量子状態を同時に占めることができないと定めています。簡単に言えば、異なる原子の電子が全く同じ空間を同時に占めることはできないということです。量子トンネル効果により、粒子が障壁を通り抜けるごくわずかな確率が存在しますが、無数の原子で構成される人間が壁を通り抜ける確率は極めて小さく、事実上不可能とされています。
この原子レベルでの相互作用は、私たちが日常で経験する物質の「固さ」や「触感」の根源となっています。電子雲間の反発力は、原子同士が互いに押し合い、その結果として物質がその形状を保つことを可能にしています。たとえ原子の大部分が空隙であっても、これらの力が私たちの知覚する「固体」としての性質を生み出しているのです。
この現象は、物質の構造と性質が、目に見えない微細なレベルでの相互作用によってどのように決定されるかを示しています。例えば、物質の硬さや弾力性は、原子間の距離や結合の強さによって決まりますが、それらはすべてこの電磁気的反発力とパウリの排他原理に根差しています。これらの原理がなければ、物質は現在の形を保つことができず、私たちの知るような世界は存在し得ないでしょう。