大阪公立大学と韓国科学技術院(KAIST)の研究者チームは、量子流体において長年予測されてきた量子ケルビン・ヘルムホルツ不安定性(KHI)を初めて実験的に観測することに成功しました。この発見により、エキセントリック・フラクショナル・スカイミオン(EFS)と呼ばれる、これまでにない渦構造が明らかになりました。これらの渦の形状は、フィンセント・ファン・ゴッホの有名な絵画「星月夜」に描かれた月や渦巻き模様に驚くほど似ています。
KHIは、速度の異なる二つの流体が接する界面で波や渦が発生する、流体力学における古典的な現象です。今回の実験では、研究者たちはリチウムガスを絶対零度近くまで冷却し、多成分ボーズ・アインシュタイン凝縮体、すなわち量子超流動体を生成しました。この超流動体の二つの流れを異なる速度で流したところ、その界面に波状のパターンが現れ、量子力学とトポロジーの法則に支配された渦が生成されました。これらの渦は、新しく発見されたトポロジカル欠陥の一種であるエキセントリック・フラクショナル・スカイミオン(EFS)と同定されました。従来のスカイミオンとは異なり、EFSは対称的な形状ではなく、三日月形をしており、スピン構造が崩壊して急激な歪みが生じる特異点を含んでいます。この形状が、ゴッホの「星月夜」に描かれた印象的な三日月と酷似している点は注目に値します。
スカイミオンは元々磁性材料で発見され、その安定性、小型性、そして特異なダイナミクスから、スピントロニクスやメモリデバイスへの応用が期待されています。超流動体内で新しいタイプのスカイミオンが発見されたことは、技術的進歩と量子系の基礎的理解の両方に大きな影響を与える可能性があります。研究チームは、19世紀に提唱されたKHIの界面波の波長と周波数に関する予測を検証するため、より精密な実験を行う予定です。また、EFSは既存のトポロジカル分類に挑戦するものであり、その埋め込まれた特異点は新たな疑問を投げかけています。研究者たちは、同様の構造が他の多成分系や高次元系で見られるかどうかを調査することを目指しています。
この重要な進歩は、数十年前の予測を検証するだけでなく、量子渦の性質、多成分流体の構造、そして物理学におけるトポロジカル分類の限界に関する新たな探求の道を開きます。この研究は、2025年8月8日にネイチャー・フィジックス誌に掲載されました。この発見は、アートと科学の間の驚くべきつながりを示しており、量子現象の理解を深める新たな視点を提供します。