イタリアの研究チームが、物質の新たな量子状態である「超固体」を光から創り出すという科学的快挙を成し遂げました。この発見は、2025年3月に権威ある科学誌「Nature」で発表され、量子技術やフォトニクス分野に新たな可能性をもたらすものです。
超固体とは、固体のような結晶構造を持ちながら、同時に液体のような無摩擦での流れを可能にする、一見矛盾した性質を併せ持つ物質状態です。従来、超固体は原子を絶対零度近くまで冷却することで生成されてきましたが、今回の研究では、光そのものを操作してこのエキゾチックな状態を実現しました。
研究チームは、アルミニウムとガリウムヒ化物を精密に加工した半導体構造を用い、これにレーザー光を照射しました。このプロセスにより、「ポーラリトン」と呼ばれる、光子と励起子が相互作用して生まれたハイブリッド準粒子が生成されました。これらのポーラリトンは、半導体構造内の微細な溝によって閉じ込められ、その結果、結晶構造のような規則的な配列を取りながらも、超流動体のような抵抗のない流れを維持する性質を示しました。
この画期的な状態の実現には、極めて高い精度での測定が不可欠でした。研究者たちは、ポーラリトン状態の密度変調を数千分の数という微細なレベルで正確に捉え、「並進対称性の破れ」という現象を観測しました。これは、均一な状態から結晶構造のような規則的な状態へと移行したことを示す物理現象であり、超固体の形成を裏付ける重要な証拠となります。
この研究は、イタリア国立研究会議(CNR)のダニエレ・サンヴィート氏らの長年の研究成果の上に成り立っています。サンヴィート氏は10年以上前に光が流体のように振る舞う可能性を示していましたが、今回の成果は、光を「固体」として組織化させるという、さらに一歩進んだ段階を示しています。彼は、「私たちは本当に新しいものの始まりにいる」と述べており、この発見が基礎科学と実用的な応用との間の架け橋となる可能性を強調しています。
この技術は、より効率的な照明デバイス、摩擦のない潤滑剤、さらにはニューロモルフィックコンピューターといった、多岐にわたる分野での応用が期待されています。また、超伝導体や量子コンピューティングの分野における進歩も刺激する可能性があります。
この研究は、欧州連合(EU)のQ-ONEおよびPolArtプロジェクトからの支援を受けており、複雑な量子現象が理論的な段階から実験的な実現へと進むことができることを示しています。これは、科学と技術の新たな地平を切り拓くものであり、光という普遍的な現象の奥深さと、それを探求する人間の知的好奇心の力を改めて示しています。